【袴田巌さん再審判決】捜査、裁判…司法に責任は 過去の無罪言い渡し、謝罪も
「裁かれるべきは違法捜査を繰り返した警察、警察と共謀して犯罪的行為を行ってきた検察、見逃してきた弁護人および裁判官であり、ひいてはわが国の司法制度だ」 2023年10月27日、静岡地裁で開かれた袴田巌さん(88)の再審初公判で、弁護団は自戒を込めて、ひときわ強調した。 弁護団事務局長の小川秀世弁護士は「軽重はあっても、司法関係者は責任を感じなくてはいけない。手続きに問題があったことは明らか」と意図を説明する。 袴田さんへの取り調べは1日平均12時間を超え、過酷を極めた。県警の「捜査記録」によると、〈情理だけでは自供に追い込むことは困難〉として、取調官は〈確固たる信念を持って、犯人は袴田に絶対間違いないということを強く袴田に印象づける〉よう努めた。再審で有罪立証を続けた静岡地検の幹部でさえ「現代の刑事司法の常識から言えば不相当」と言わざるを得ず、地検は自白調書を犯人性の立証に用いなかった。 対して当時の弁護人が袴田さんと接見したのは3回に過ぎず、合計でも30分程度だった。小川弁護士は「抗議できたはずなのに何もしていない。自白を取らせてしまったことは決定的な失敗」と言う。再審弁護人としても「もっと早い段階から捏造(ねつぞう)の主張をすべきだった」と自省する。 10年3月、栃木県の宇都宮地裁。同県足利市で女児が殺害された「足利事件」で無期懲役が確定した菅家利和さん(77)の再審判決公判で、無罪が言い渡された。「菅家さんの真実の声に十分に耳を傾けられず、17年半もの間、自由を奪う結果になったことを裁判官として申し訳なく思う」。裁判官3人が法壇で立ち上がり、深々と頭を下げた。 菅家さんは当時を「ありがたかった」と振り返る一方、今も抱え続ける思いを明かす。「取り調べをした刑事、検事、間違った裁判官に謝ってもらいたい」。菅家さんにとって事件はまだ終わっていないという。 滋賀県東近江市の湖東記念病院で人工呼吸器を外して患者を殺害したとして、懲役12年が確定して服役した元看護助手西山美香さん(44)の再審判決公判で、大津地裁は20年3月、無罪を宣告した。裁判長は判決を言い渡した後、「訓戒」に準ずる形で、証拠開示などが適切に行われていれば誤りは起こらなかったかもしれない、と指摘。「問われるべきは捜査手続きのあり方」などと批判し、「刑事司法の改善に結びつけていかなければ」と述べた。 取り調べで虚偽の自白をさせられた西山さん。「裁判長から『もう、うそをつかなくていい』『これからは堂々と生きてください』と言われたことがうれしかった」と語る。裁判長の言葉は謝罪であり、反省でもあったと受け止めている。
静岡新聞社