もうすぐ運行再開の信楽高原鉄道 ── 廃線の危機乗り越え/鉄道ライター・伊原薫
滋賀県を走る第三セクター鉄道・信楽高原鉄道。2013年(平成25年)の台風18号被害により、全線で運行を休止していた同鉄道ですが、復旧費用の問題から一時は廃線も検討されました。しかし、国からの補助が下りることとなり、29日にようやく全線で運行を再開することになりました。
復旧費用の問題から一時は廃線も検討
2013年9月に日本を襲った台風18号。京都府丹後地方をはじめ、近畿地方の広範囲に被害をもたらしました。鉄道への影響も大きく、京都市営地下鉄と京阪電鉄では地下線が水没し、完全復旧まで2週間を要したのをはじめ、いくつかの路線で浸水や土砂崩れによる被害が発生。そして、中でも最大の被害を受けたのが信楽高原鉄道でした。 始発駅である貴生川駅の近くを流れる杣川が増水し、同線の橋梁が流されたほか、沿線の20ヶ所以上で路盤流失や土砂崩れが起こり、同日から全線で運休を余儀なくされました。信楽高原鐵道では代行バスを運行して乗客輸送にあたる一方、線路の保有者である地元・甲賀市と協議を開始。復旧費用の問題から一時は廃線も検討されましたが、国からの補助が下りることとなり、運行再開が決定されました。 当初は「2014年12月まで」とされていた復旧工事は順調に進み、今年10月には全線の線路が再びつながるとともに、貴生川駅に取り残されていた車両1両が車庫のある信楽駅へ「帰宅」。運行再開に向けた車両や施設の準備も完了し、いよいよ29日に全線で運行を再開することになりました。
鉄道会社は運営、設備は自治体所有の「上下分離方式」
ところで先に書いた通り、今回復旧された杣川橋梁を含め、信楽高原鉄道の線路や車両などの設備は地元である甲賀市が所有しています。「上下分離方式」と呼ばれる方式で、インフラとなる設備は自治体が所有し、鉄道会社はその運営を行うというものです。 国や自治体の持ち物である道路や港・空港を使って、バス会社・船会社・航空会社が営業を行うのに似ています。鉄道会社にとっては「資産」を持つことによる税金負担を減らすことが可能、自治体にとっては鉄道会社を運営に特化させることで、安定した経営や良質なサービスを提供させることが可能になるなどのメリットがあり、地方の公共交通を守る手段として近年広まっています。 一方で、この方式は自治体が施設の取得や維持などに「税金」を使っているという解釈もできます。それだけに、沿線の十分な合意のもと、地域住民が便利で安心して利用でき、地域全体の利益となることが求められます。ましてや、今回のような災害が起こった場合、その復旧費用は施設を所有する自治体の負担となるため、「それだけの費用をかけて復旧させる必要があるのか」という議論になります。