<STAP細胞問題>日本の若手研究者への影響は? 損なわれた「博士」への信頼性
理化学研究所の小保方晴子・研究ユニットリーダーらが引き起こしたSTAP細胞の論文不正問題。これは本人や理化学研究所のみならず、科学の世界全般、とくに若手研究者らに大きな影響をおよぼす可能性があります。 「なんといっても、博士論文がいいかげんなかたちで書かれていたと明らかになったことの影響が大きいと思います。もしかすると、『ネイチャー』論文の問題そのものよりも」と話すのは、研究不正問題に詳しい病理医の榎木英介・近畿大学医学部講師です。
就職や留学がしにくくなる?
「早稲田大学では、小保方氏のものだけでなく多くの博士論文にいわゆるコピペなど多くの問題があることが指摘されました。博士論文のクオリティ・コントロール(品質管理)に対する信頼性が大きく損なわれてしまったのです。博士号を取得した大学院生は、いまでも企業や研究機関に就職することが難しいのですが、この問題のせいで、博士をわざわざ雇う必要なんてない、という風潮がより高まるかもしれません」 しかも問題は日本国内にとどまらないことを榎木さんは指摘します。「たとえば、日本の博士の信頼性やその研究遂行能力は低い、と思われるようになって、留学などをしにくくなるかもしれません」 日本の若手研究者は小保方氏を含めて任期付研究者、つまり非正規労働者が多く、彼らは過剰な成果主義とそれによる競争を強いられていると、これまでもずっと問題視されてきました。ただでさえ厳しい状況にある若手研究者たちの立場が、今後さらに厳しいものとなるかもしれません。
行き過ぎた「成果主義」の風潮
また、行き過ぎた成果主義、競争的風潮が緩和されない限り、研究不正への対策は若手研究者をの負担を増やすだけかもしれません。 いわゆる「研究不正(捏造・改竄・盗用)」に加えて、「再現性」や「ギフト・オーサーシップ(たいして貢献していない者の名前を“贈り物”として著者欄に加えること)」、「論文撤回」、「研究費の不正使用」といった関連問題は、科学界ではここ数年、広く議論されてきました。STAP細胞論文が掲載された『ネイチャー』誌も、有力な科学者や研究機関、政府機関が改革に取り組む様子をそのニュース欄で伝えてきました。STAP細胞問題は、その渦中で起きたのです。 日本も例外ではありません。文部科学省は現在、研究不正に関するガイドラインの見直しを行っています。2013年度中には、新しいガイドラインが発行されるはずでした。しかしSTAP細胞問題の影響もあって、その発行は遅れています。ガイドライン見直しに取り組む会議の委員で、科学史家でもある中村征樹・大阪大学全学教育推進機構准教授は「新しいガイドラインは研究機関に対して、研究倫理教育を義務化する方針です。また、研究不正が発覚したとき合理的な理由がないまま調査が遅れた場合には、経費を削減するなどのペナルティを科すことが盛り込まれる見込みです」といいます。