「マイヨール記念館」構想が始動 館山(千葉県)
素潜り競技で世界的な伝説のダイバー、ジャック・マイヨール(1927~2001)の記念館を建てる計画が、ゆかりの地、館山市で4月から動き出した。 深い親交があった成田均さん(76)=同市犬石=が、同市坂田で、記念館の一部となる子どもたち向けの自然体験施設の建設工事を始めた。この夏のオープンを目指す。今後、マイヨールの遺品や記念の品などの展示施設も順次、手づくりで整備していく。 フランス人のマイヨールは、1976年に水深100メートル、83年には105メートルの素潜り世界記録を達成。仏映画「グラン・ブルー」(1988年)のモデルにもなった。禅や武士道の精神に強い関心を寄せ、同市坂田にあった別荘にたびたび足を運んだ。2001年にイタリアで自ら命を絶ち、生涯を終えた。 同市でダイビングスクールを経営し、世界の海を潜ってきた成田さんは、1969年にイタリアでマイヨールと知り合い、亡くなるまで親交があった。 成田さんはマイヨールが生前、「人間の欲望による環境破壊で大災害が起きる」「欲望の最も大きな形が核兵器」と前置きし、「人類はあと200年生きられない」と語ったことが忘れられない。 温暖化による気候変動、ロシアのウクライナ侵攻、北朝鮮の度重なる軍事的な挑発……。「ジャックの予言が現実になっている」と成田さん。 記念館の計画は、そんな世界の現実に触れ、「今こそ『すべての生命は母なる地球の子ども』『人にとっていちばん大切なのは人を信頼すること』というジャックのメッセージを子どもたちに伝えなければならない」との強い思いから、具体化に向け一歩を踏み出した。 施設では、流木で洋服のハンガーや写真スタンドをつくったり、貝殻でランプシェードを組み立てたり、といった体験をしてもらう。「自然の大切さを感じたり、環境を守る心を養ったりしてもらえたら」と成田さん。
経営するダイビングスクールの隣接地、計約600平方メートルに休憩スペースを含む2棟を建設する。土地は趣旨に賛同した近くの人が貸してくれた。設計図は仲間の建築士がほぼ手弁当で描いてくれた。工事には仲間の建築業者が手を貸してくれる。もちろん、成田さんも作業に汗をかく。 成田さんは、マイヨールが愛用したフィンや水中マスク、写真など計数百点に上る遺品や資料を今も自宅で大切に保管している。今後はこれらを展示する記念館の「本館」をつくることが目標だ。総額7000万円ほどとみられる資金や行政的な手続きなど課題はたくさんあり、今はめどが立たない。だが、実現の見通しはある。 建設用の木材は、2019年台風で倒木になったスギやヒノキなどを君津市の林業家が提供してくれた。専門業者に頼む必要がある基礎工事の他は、成田さんが仲間の手も借りてこつこつと建てていくつもりだ。 「この館山に、ジャックが生きた証しを何としても形にして残したい」。成田さんの声に力がこもる。