なら国際映画祭2024の各賞が発表、河瀬直美「私が生きている間は続けていきたい」
なら国際映画祭2024のクロージングセレモニーが9月23日に奈良・奈良市ならまちセンター 市民ホールで開催され、コンペティション部門など各賞が発表された。 【画像】なら国際映画祭2024のエグゼクティブディレクターを務めた河瀬直美 学生が手がけた映画・映像作品を対象とするNARA-waveの最優秀賞“ゴールデンKOJIKA賞”は、クン・サンが監督を務めた「詩人」に贈られ、観客賞とのダブル受賞を果たした。クン・サンは「若い世代にこういう機会を作っていただける『なら国際映画祭』は本当に素晴らしい。ものすごい自信につながるし、人生の糧になります。これからも映画を作っていきます」と感謝。NARA-waveの審査員長・三船美佳は「これからキラキラ羽ばたく皆さんの作品を拝見できてとてもうれしいです。将来もとても楽しみにしてます」と語り、審査員の山崎裕は「皆さん、撮影技術が大変上手になっています。ただ映像にこだわり過ぎて、内容やお芝居と有機的に結びついていない面もあります」とアドバイスを送った。 インターナショナルコンペティションの最優秀賞“ゴールデンSHIKA賞”には、ジョシュア・トリッグの監督作「サートゥ / うさぎ年」が輝いた。トリッグは感動した様子で「子供の頃から映画が作りたくて、日本に来たくて、今、特別な気持ちになっています。私の人生の中で素晴らしい時間になりました」と述べる。審査員長の奈良美智は「映画のよさはチームで作っていくことだと思います。映画っていいんだな。ラオスという一国の文化の中で映画を作っていくのはチャレンジだったと思います」とコメント。審査員の寺島しのぶ、マテオ・ファチェンダが特に本作を気に入っていたことも明かした。 エグゼクティブディレクターの河瀬直美は「『なら国際映画祭』の希望は参加しているユースのみんなです。映画を制作して、映画を観て、映画を一生懸命審査をしてくれたことが私たちの希望です。10代のユースという世代、もっと言えばこの世界に生を受けた子供たちが、芸術を通して育まれたらうれしいです」と吐露。そして「でも私だけでは本当に何もできません。だから今日ここに来て『なら国際映画祭』を支えてくれたたくさんの皆さんがいてこそ、この映画祭が存在しているのだと思います。私が生きている間は、続けていきたいと思います」と挨拶し、映画祭の幕を閉じた。 ※河瀬直美の瀬は旧字体が正式表記 ■ なら国際映画祭2024 受賞結果 □ インターナショナルコンペティション ゴールデンSHIKA賞 「サートゥ / うさぎ年」(監督:ジョシュア・トリッグ) 観客賞 「失った時間」(監督:ツァイ・ジエ) 審査員特別賞 「ハートレス」(監督:ナラ・ノルマンデ、ティアオ) □ NARA-wave 学生映画コンペティション ゴールデンKOJIKA賞 「詩人」(監督:クン・サン) 観客賞 「詩人」(監督:クン・サン) 審査員特別賞 「忘れられたものだけが新しい」(監督:モナ・シーア) □ ユース映画審査プログラム Crystal SHIKA賞 長編部門 「ラスト スイム」(監督:サーシャ・ナスワニ) Crystal SHIKA賞 短編部門 「ナイジェリアのバレエダンサー」(監督:ジェイコブ・クルプニク) 審査員特別賞 「せん」(監督:森崎ウィン) ■ 審査員総評 □ インターナショナルコンペティション審査員 奈良美智(審査員長 / 現代美術家) 国や言葉の異なる映画は全部で6作品。審査ということもあって、楽しむということ以上に真剣に鑑賞しました。言語というものは理解を助けてくれるのだが、スクリーンに映る映像や音は言語を超えて、人間本来の知覚を刺激して記憶や経験に訴えかけてきます。そこからボンヤリと浮かんでくるのが感想に繋がるのだという当たり前のことを再認識させていただきました。 寺島しのぶ(俳優) 今回、ダイアローグ、対話がテーマでしたがそれぞれの作品でそれぞれの人との関わり方があり、関わったことでどう物語が展開していくのかをワクワクしながら拝見しました。 敬愛する樹木希林さんの言葉に、こんなはずじゃなかった。それでこそ人生。というのがあるのですが皆様の作品を拝見し正にそう思いました。 マテオ・ファチェンダ(監督およびエディター) 実に興味深い旅で、さまざまな物語や視点を発見することができました。私は、これらの作品が国際映画祭のパノラマの中で正当な地位を獲得するだろうという思いが今も残っています。また、素晴らしい「なら国際映画祭」でこれらの作品の旅に参加できたことを嬉しく思います。 □ NARA-wave審査員 三船美佳(審査員長 / 俳優) 我が子と同じ世代の学生さんたちが作り出す映像に感心、感銘を受け終始、親心で観ていました。 作りたい世界観や伝えたいメッセージをたくさん悩んで努力してまとめられたことでしょう。 YouTubeやネットなどでは早送りで観る時代に生きる世代が、思う存分に映画特有の《間》を楽しんでましたね。 これからキラキラ羽ばたく皆さんの作品を拝見出来てとても嬉しいです。将来もとても楽しみにしてます! 山崎裕(撮影監督) 各国の学生の10作品を拝見しました。皆さん撮影技術などが大変上手になっています。ただ映像に拘り過ぎて、内容やお芝居と有機的に結びついていない面もあります。又、作品のテーマやモチーフが内向きで、自分自身に向いている作品が多いのが気になりました。 今後は世界、社会、他者、という外に目を配って映画を作って欲しいと思います。 そのような視線の作品と出会えて、賞を差し上げることが出来、嬉しく思っています。 ■ 河瀬直美(なら国際映画祭 エグゼクティブディレクター / 映画作家)総評 審査員みんなのコメントが用意していたものの倍以上になっていて、映画を通して経験してもらった時間が、それだけ素晴らしかったのだなと思っています。昨夜、私が最初に作った映画「萌の朱雀」を上映したのですが、奈良美智さんが「28年前に観た時も、昨日観た時も『奥行きのある映画』だと感じた」と言ってくださいました。それは、60年以上映像に携わるNARA-waveの審査員・山崎裕さんが今日おっしゃったことと図らずも通ずるものがあるのかなと思っていて、デジタルや技術が革新し、私たちの周りにたくさんの“出来ること”が増えていく時に、もしかしたら人間が今まで出来ていたことを失ってしまっているのではないのかなと、私の中で焦りや未来への懸念のようなものが生まれ始めています。でも、「なら国際映画祭」に参加しているユースのみんなが希望です。みんなが映画を制作することや、映画を観て一生懸命考えてリスペクトをしながら審査をしてくれたことが、私たちの希望です。10代のユースという世代、さらにはこの世に生まれたばかりの世代が、芸術を通して生きることを素敵だなと感じてくれたらと思います。ユースのみんなが目指すべきところが、学生部門のNARA-waveの皆さん、そして、NARA-waveの皆さんが目指すところが、若手監督のインターナショナルコンペティションの皆さん。目指すべきところがこの映画祭の中にあるんです。そして大人である私たちは笑っていなければと思います。地方都市だったとしても、苦しい状況だったとしても、私自身は笑っていようと思います。そして、私だけでは何も出来ません。「なら国際映画祭」を支えてくださったたくさんの人々が関わってこそ、この映画祭が存在していると思います。私がこの世からいなくなっても、この映画祭が続いていくことを願って、2024年閉幕の言葉とさせていただきます。いつまで続くか分からない「なら国際映画祭」ですが、続けていきたいという願いと思い、情熱は私が生きている限り持ち続けていたいと思います。