なぜここで?「謎の汚染」を解明するカギになるか、環境省が全国調査へ
汚染源の活性炭はどこから運ばれたのか
ただ、いくつかの情報から可能性を絞り込むことはできる。 ひとつは、汚染された水道水に含まれていたのは、数ある有機フッ化化合物(PFASは総称)のうちの一つ、PFOAが大半を占めていた、という点だ。 活性炭は全国の浄水場でPFAS除去のために使われている。浄化前の水にはさまざまな種類のPFASが含まれるため、野積みされていた活性炭が浄水場で使われたものならば、いくつもの種類のPFASが残るはずだ。 だが、検出されたのがほぼPFOAだけとなれば、製造過程でPFOAを使っていた工場で使われたものである可能性がきわめて高い。 さらに注目するのは、同社が使用済み活性炭の野積みを始めた時期だ。 町によると、2008年とされる。当初は町内の工場の近くに置いていたが、保管場所が足りなくなるなどして山中の資材置き場に置くようになった、という。 その2年前、世界の化学メーカー8社は「2015年までにPFOAの製造・使用を廃止する」との協定を結び、排出削減に取り組むことで合意した。国内からは、ダイキン工業、三井・デュポンフロロケミカル(現三井・ケマーズフロロプロダクツ)、旭硝子(現AGC)の3社が加わっている。 つまり、大手化学メーカーがPFOAの排出削減に取り組みはじめた直後に、吉備中央町で使用済み活性炭の再生を手がける同社が地元の山中で野積みを始めたことになる。そこに何らかの関連はないのか。 町は専門家などによる原因究明委員会を設け、資材置き場などの土壌調査を予定しており、汚染源を確定し、汚染実態の解明を進めたいとしている。
全国の「汚染の謎」を解くカギになるか
町議会が環境省に提出した要請書は、こう締め括られている。 「すでに相当量のPFAS含有廃棄物が全国に拡散しているものと思われます。健康被害を未然に防ぎ、良好な環境を保全するためにもPFAS含有廃棄物の管理及び処理の厳格な規制を行っていただけるよう要請します」 環境省は、活性炭処理の現状を把握するため全国の業者に対する実態調査にとりかかり、2024年度中に結果を公表するという。 だが、吉備中央町で野積みしていた会社のように、廃棄物管理の「川下」を調べるだけでは不十分だろう。そもそも汚染除去のために活性炭を使っていた工場・事業者や浄水場を運営する自治体など、「川上」にある排出者の責任をどこまで問うのか、環境省の姿勢もまた問われている。
諸永裕司