小さな鉢の大きな自然。完成のない趣味を『品品』で。
東京都内の駅名を「あ」から五十音順に選出し、その駅の気になる店やスポットなどを ぶらりと周っていく連載企画「東京五十音散策」。「お」は奥沢へ。
空き地で野球をしていると、ボールが裏の家の盆栽に直撃。そこの親父さんに怒鳴られるなんて場面は、ギャグ漫画の王道描写。ところが近年、盆栽=”裏の家の親父の趣味”ではなく、「BONSAI」というクールな嗜みとして海外でも人気が高まっているそうではないか。ただ、盆栽というと手間のかかる印象があるし、伝統的な芸術のひとつであるからこそ、せっかく興味が湧いても、敷居の高さを感じてしまうのが本音だ。 東京五十音散策 奥沢③
奥沢駅から徒歩5分、盆栽教室・造園のお店『品品』で、まずは教えてもらうことからスタートしてみるのはいかがだろう。初心者コース、応用コース、個人教室と、いろんな要望に合わせた3つの教室を用意しているから、どんな人でもトライすることが可能だ。
教えてくれるのはオーナーの小林健二さん。盆栽作家として、個展をはじめ様々な著作を記したり、他業種とのコラボレーションを行ったりするなど、精力的に活動をされている方だ。「良い家と庭があって良い”家庭”になる」というお父さんの教えから、若い頃は建築や造園に興味があったという小林さん。庭や植栽などの公共の緑についての仕事をするうちに、盆栽へと関心を広げ、オレゴン州ポートランドで活動されている盆栽作家・古川昌弘さんの元で修行を積んだ。今年、奥沢でお店をはじめて22年目を迎える。
「店名は『品のある品を』という思いでつけました。身近に四季を感じながら、その美しさを飾ってみるのは楽しいですよ」
何にも知らない僕にも小林さんが優しく教えてくれるから、初めての盆栽でも安心して取り組めた。教室には若い人をはじめ、カップルから親子、会社員、リタイア後の仲間グループ、観光客などなど、年齢性別さまざまな人が訪れる。2時間ほどかかる作業も会話しながらやれるから、教室というより、コミュニティスペースのような楽しさがある。
「便利で効率がいいことも悪くないですが、盆栽のように手間がかかる良さもあると思うんです。小さな木と、自分と対話しながら温和な気持ちになれますしね。植物は自然のものですから、自分が住む地球や環境を知っていくきっかけにもなります。それはとても人生にプラスだと思いますよ」