映画の撮影なのに「人数少なくない?」…『侍タイムスリッパー』ヒロイン役・沙倉ゆうのさん、殺陣師役・峰蘭太郎さんが語る舞台裏
クライマックスシーンの粋な構成
――ではBlu-ray発売までに追撮をお願いされたら? 峰スケジュールが合えば(笑)。 この映画を語るうえで絶対に外せないのが最後の立ち回りだ。クライマックスであるにも関わらず盛り上げるようなBGMは一切なく、終始無音のなかに刀が擦れ合う金属の音だけが響く。コメディだと聞いて映画館にやってきて、殺陣を見て涙するとは思っていなかった。 沙倉みんなの映画への想いが強かったから、ディスカッションも多かったです。特に冨家さん(風見恭一郎役/冨家ノリマサ)と馬木也さん(高坂新左衛門 役/山口馬木也)と監督の。 峰あのクライマックスシーンは撮影に入る前に、この道場で構想するところから準備しました。何を撮りたいのか、構図や殺陣だけじゃなくて、「想い」をね。ロケ地へいく前にこの道場で、リハーサルではなくその前段階の作り込みをやった。殺陣師の清家一斗くんと僕と、監督の三人で。
彼らの夏はまだ終わらない
――クライマックスの高坂新左衛門と風見恭一郎のシーンは「間」が印象的でした。お二人とも動かない時間が長い。 峰真剣ですからね。真剣だったらどうなる? 対峙して動けないですよね。でも動かないと殺陣にならない。真剣の怖さや鋭さをどうやって表現しようかと。まず殺陣ではなく、べースになるものをこの道場で作りました。監督もガッツリ関わって作ってね。その想いがあのクライマックスの映像に出たのだと思います。完成した映画を観て「みんなの想い」が作品に出ていたと思うんですけど、僕にとってそれを一番感じたのが、この道場でクライマックスシーンを考えた時間だったかもしれない。 私が映画を見たのは10月の頭。ちょうど本作がNHKなどの各メディアで取り上げられはじめた頃だった。その日、TOHOシネマズ新宿は朝から夜まで5回ほど上映していたが、それにも関わらず前日夜の段階でアプリからの予約はどの回も残席「△」だった。 ポケットマネーと情熱で映画を作り、撮影終了後の預金残高は7000円もなかったという監督・安田淳一さん。その監督の熱に呼応するように1つになった映画のサムライたち――。彼らの夏はまだ続きそうだ。 峰 蘭太郎 1964年16歳で故・大川橋蔵に弟子入り、TV俳優デビュー。 東映京都撮影所・専属演技者となって「斬られ役」として活躍する傍ら《殺陣技術集団・東映剣会》の役員・会長を歴任。近年の出演作は映画「せかいのおきく」「多十郎殉愛記」「太秦ライムライト」他。所作指導としての参加も多い。本作では殺陣師役を好演。 沙倉ゆうの 未来映画社製作「拳銃と目玉焼」では薄幸のヒロイン、「ごはん」では主役を演じる。 米作り農家を描いた「ごはん」では2017年の公開まで4年、以降地方のホール等で公開が連続38ヵ月続く間を含め、のべ7年以上も行われた追撮に参加。その間、変わらぬ若さに皆が驚いた。本作では劇中で助監督優子役を演じつつ、実際の撮影でも助監督、制作、小道具などスタッフとしても八面六臂の活躍。 写真撮影 / 田中厚志(株式会社ズコーデザイン) 取材・執筆 / 近視のサエ子
近視のサエ子(音楽家・映像作家・ビジュアル表現者)