青木真也「稼げないなら趣味でやれ」 辞められない格闘家に送る言葉「夢は現実突きつけて潰さないと」【青木が斬る】
連載「青木が斬る」vol.1~前編~
2003年のプロデビュー以来、日本総合格闘技界のトップを走り続けてきた青木真也(41)。複数の書籍も出版し、文筆家としての顔も持つ。また自ら「note」でも発信をし続け、青木の“考え方”へのファンも多い。ENCOUNTでは青木が格闘技の枠に捉われず、さまざまなトピックスについて持論を語る連載「青木が斬る」を始動。連載初回のテーマは「見切りをつけること」。(取材・文=島田将斗) 【動画】「感動した!」青木真也、勝利の瞬間…拳を握り、感極まったような表情 ◇ ◇ ◇ ABEMAのドキュメンタリー番組『格闘代理戦争-THE MAX-』の準決勝で「TEAM青木真也」の中谷優我が1R・18秒で一本負けを喫した。監督の青木真也は「人はやっぱり変われない」と斬った。まだ同トーナメントが始まって1か月ほどしかたっていない。「もう少し長い目で見れば……」と質問をぶつけると「人を潰します」とずしりと重いひと言をもらった。 「多くの人は続けさせようとする。『こうしたらできる』とか。それは仕事だからだろうけど、俺はそれを良しとはしていなくて……。より厳しく言ってあげることが優しさだと思ってる。変に夢見て現実を直視せずに問題を先送りにして解決せずにやっていくと取り返しがつかなくなると思うんですよ。特にこの業種(格闘家)は」 警察官、公務員という安定を捨て23歳でプロ格闘家になった。決して浮かれていない。社会人になったばかりながらこの選択に大きなリスクを感じていた。 「23歳でプロ、専業になったんです。そのときに思ったのが『26、27歳で食っていくのが精一杯ならやめよう』と。ファイトマネーも含めて飯を食っていくのが精一杯、横の年収と比べてみてちょっと上ぐらいならやめようと思ってた。年収600~700万円ならやめようと」 明確な指標を持ってDEEP、修斗、PRIDE、DREAMと業界の最前線で戦ってきた。若くして脚光を浴びる経験もしているが「もうちょっとやっていい」と思えたのは2012年のONE チャンピオンシップ参戦。29歳の時だった。 「1番強い」を目指すこの業界に自身の経済的状況やライフプランなどを俯瞰して見られる選手はそう多くない。「二足の草鞋」は傍から見れば美談に聞こえるが、“社会人”として見るならば実際はかなり苦しいことも確かだ。『格闘代理戦争 THE MAX』で推薦選手に対し早々に“見切り”をつけていたのにも理由がある。 「要は試合がリトマス紙だった。格闘技をやってみればいい。でも勝ち負けとかではなくてそれで心が折れているなら向いてないしやめようって。格闘技って本当に辛い業種で世間でまともではない人がやれる仕事なんですよ」 一般社会では許されることのない「殴る、蹴る、絞める、折る」が許されているのが格闘技。減量では心をすり減らし試合では大小関係なくダメージを負うことがほとんどだ。「これは本音」とこう漏らした。 「『格闘技をやめた方がいい』っていうのは『一般社会で生きていけるなら、お前はそっち行けよ』ということでもある。一般で生きていけるのにこっち(格闘技)にいる必要はないから。だから夢見ずに見切ってそっち行ってまともに生きて格闘技は趣味でやればいい」 「稼げないなら続けさせても仕方ない」――。これが国内外で20年間格闘技をしてきた者の持論だ。ネガティブに見えるかもしれないが、収入やタフな精神がなければ続かない。これが現実だ。 「見切った風になってるやつは亡霊となってまた戻ってくる。だからその夢や憧れに対して現実を突きつけてつぶさないといけない。自分がリアルを見ないと納得しないんだよ」