河野デジタル大臣が吹聴する「マイナンバーカードの偽造対策」への違和感
ちなみに現在、悪用が問題となっている券面のみをコピーした偽造マイナンバーカードを見分けるには、特別なアプリも読み取り機も必要ない。デジタル庁が配布しているマイナポータルアプリをインストールしたNFC機能搭載のスマホがあればいい。 まず、このアプリでマイナンバーカード、もしくはスマホ用利用者証明用電子証明書の4桁のパスワードを入力したのち、スマホでマイナンバーカードのICチップ部分にかざす。ICチップが正規のものであればログインが成功するが、ニセモノであればそれ以上進めない。 この作業をマイナンバーカードの名義人が行い、アプリのログイン完了画面を提示することで、「厳格な本人確認」の一助となるだろう。問題点は、本人がパスワードを覚えていなければならない点だ。 ■目視で真贋を判別する危険性 一方、河野大臣は同記事のなかで、目視での真贋判別手段についても触れている。 「マイナンバーカードの右上のマイナちゃんには、パールインキという特殊な印刷技術が使われていて、見る角度が変わるとマイナちゃんの背景色が変わります。単純な印刷では色が変わらないので、ここを確認すれば偽造カードであることが一目瞭然です」(同) これは、過去にも河野大臣が繰り返してきた、マイナンバーカードのアナログ的真贋判別手段だ。これまで確認されている偽造マイナンバーカードは、確かにこの「マイナちゃん」のロゴマークにパールインキは施されていなかった。パールインキは精巧にコピーしようと思えば、技術面でもコスト面でもハードルが高いことも事実だ。 しかし「見る角度が変わると背景色が変わるマイナちゃん」自体は、そのレベルを問わなければ単純なホログラム印刷でも再現可能だ。デジタル大臣お墨付きのこの判別方法が一人歩きすることで、今後、逆にその点を偽造組織につけ込まれる可能性も否定できない。 とはいえ、マイナンバーカードは旧来の各種身分証明書に比べ、特別、偽造が容易というわけではない。運転免許証や在留カードなどの写真付き身分証明書も、同様に偽造事件が起きているのだ。しかし鳴り物入りで導入された最新の身分証明書の耐偽造性が、過去のものと比べて大きな進歩がないというのは肩透かしというしかない。 普及のために2兆円の事業予算を投じるくらいなら、偽造対策や真贋判別法の周知にも予算をかけるべきではなかったのだろうか。 文/奥窪優木 写真/奥窪優木、デジタル庁YouTubeチャンネル