司法試験合格者数「1592人」 弁護士増加・人口減少で“薄給”化が進む…とは言い切れない理由
また、家庭裁判所での家事事件の新受件数は大幅に増えてきている(【図表3】)。 これらのデータをみる限り、現状では、弁護士数の増加が、弁護士や世の中にとって必ずしも「マイナス」になると決まったわけではないといえよう。
弁護士数の増加が社会全体にとって「プラス」となる条件は?
もともと、1999年から行われた法曹人口の増加をはじめとする「司法制度改革」の目的は、法的トラブルを抱えた人のうち20%程度しか司法サービスを受けられていない「二割司法」とよばれる状態を解消することにあった。 しかし、その状態はまだ十分には解消されていない。思いつくだけでも、離婚に際しての子の養育費に関する取り決めが守られないケースや、加害者側の頑なな態度に泣き寝入りするケースなどが挙げられる。 国が行った公式の統計のデータとしては、やや古いが2014年に国の「法曹養成制度改革顧問会議」が実施した「法的ニーズに関する意識調査」がある。これによると、「最近5年間に経験したトラブルで弁護士への相談を考えたことがありますか」という問いに対し、「考えたことはない」が79.4%となっている。 これに対し、2020年代に入って民間で行われた複数のアンケート調査があるが、それらを確認しても、「二割司法」の状況が顕著に改善されたとまではいえない。 弁護士に相談することのハードル自体が、まだまだ高いといわざるを得ない。相談を断念する理由としては、以下のようなものが考えられる。 ・法的に救済を受けられる手段があることを知らない ・「自分は対象外」「十分な証拠がない」と思い込み、相談自体をためらう ・弁護士費用の負担が大きそう ・弁護士の探し方が分からない・近寄りがたい 逆にいえば、これらの課題に対する適切な手当てがなされれば、本来、権利救済を必要とする人が、弁護士をはじめとする司法サービスにアクセスしやすくなり、その需要が高まる可能性が考えられる。 もとより、国にも、一般市民が司法サービスにアクセスしやすくするための制度の拡充や、義務教育をはじめとする学校等での教育・啓発活動が求められる。また、近年、保険会社が相次いで発売している「弁護士保険」などの普及もプラスにはたらく可能性がある。 それらに加えて、今後は、弁護士の側からの積極的な情報発信が求められるだろう。実際、自身のサイトやSNS、動画メディアを通じて、法的知識について情報発信する弁護士等も増えている。 一般市民にとっても、ウェブ上で検索すれば、法律知識について分かりやすく説明しているメディアや弁護士のサイトに簡単にアクセスできるようになった。弁護士人口が増加し、弁護士1人あたりの人口が減少することは、決して「マイナス」とは断言できない。むしろ、前述の諸条件がうまく噛み合えば「プラス」になる可能性があるといえるのではないだろうか。
弁護士JP編集部