<高校野球>歴史に残る好ゲームだった決勝戦 埼玉大会を森士氏が振り返る 「徳栄 洗練された攻撃、苦しんだ数年間の集大成」 秋以降は新たな勢力図の可能性も
2021年夏まで浦和学院野球部の監督として30年間指揮を執り、現在はスポーツを通じた地域振興を目指すNPO法人ファイヤーレッズメディカルスポーツクラブで理事長を務める森士(おさむ)氏が、第106回全国高校野球選手権埼玉大会を観戦した。長年、高校野球に携わり、埼玉県高校野球界をけん引してきた視点から大会を振り返る。 7月28日の決勝戦 花咲徳栄・石塚の適時打や昌平・山根の本塁打の場面など【写真3枚】 ―決勝を観戦して。 「決勝がタイブレークとなったのは埼玉で初。歴史に残る好ゲームになった。互いの特徴がよく出た方に勝利の女神がほほ笑んだのではないか」 ―両チームについて。 「花咲徳栄は打線が投手を育てるチーム。中心選手が注目を浴びたが、1から9番まで各自が良い役割を果たせていた。上原くんが同点に追い付かれたときに岡山くんがよく後続を抑えた。打線の援護がある中で、投手力を確立する投球ができるようになってきた。 昌平は長打の打てる2から6番までの破壊力があり、ここがどのくらい得点できるかがポイントだった。多彩な投手陣の使い方にも注目していた。3人の投手はおのおのの投球をできていたが、継投のタイミングなのか、落ち着きに差が出てしまったのかもしれない」 ―勝敗を分けたのは。 「昌平は今大会ここまで堅い守りを誇ってきたが、タイブレークに入ってから守りのミスが出てしまった。徳栄は何とか食らいついて、振り幅を小さくノーステップでピッチャーの足元を狙ってゴロで打ち返した。相手のミスを誘う完成度の高い洗練された攻撃の粘りを見せていた」 ―33年ぶりの秋春夏制覇となった。 「5年ぶりの返り咲き、王座奪還おめでとう。本当にあっぱれ。徳栄は昨年の夏も、秋もあと一歩で甲子園を逃している。コロナの影響もあり、5連覇して以降は甲子園から遠ざかっていた。苦しんだ数年間の集大成が実を結んで、粘って粘った中での制覇はまた格別なものなのではないか」 ―大会を通じて印象に残った試合は。 「ベスト4の各チームが、準決勝までに苦しんだ試合があった。準々決勝の春日部共栄―浦和学院、花咲徳栄―西武台に上尾―昌平、聖望学園―山村学園。4強を相手に接戦に持ち込むチームが増えてきた。 浦和学院が逆転して抑えればというところだったが、春日部共栄は本多監督の最後の夏でこのまま終わらないだろうという予感はあった。互いに一喜一憂する好ゲームの一つだった」 ―春日部共栄・本多監督が最後の夏を終えた。 「私もとにかく本多先生を目指して戦ってきた監督の一人。私が先に引退してしまったけれど、本多監督の最後の夏の大会というところに感慨深いものがあった。44年間本当にお疲れさまでしたという思い」 ―新規格のバットに変わり初めての夏だった。 「決勝を見ると、新規格のバットでも芯を捉えれば長打が生まれることがよく分かった。それと外野の守備位置。最後も1死満塁で徳栄の9番バッターに対して昌平は外野も前で守っていたところを抜かれた。打順や状況によって守りを変えないといけないのかもしれない。それを熟知して徳栄は戦っていた」 ―秋以降の勢力図をどう見るか。 「上位4校を見ると下級生が打てるチームが少なかった。新たな戦い、勢力図が構成されていくのかもしれない。当たり前だが『常勝軍団』をつくるというのが一番難しい。徳栄の1強時代に待ったをかけられるチームはどこなのか。そういった印象を残した大会だった」
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