【忠誠ファーストと強硬派一色】トランプ人事のここが危ない!その代償を払うのは誰?
2人の共通項は「FBIに対する敵意」
トランプは、司法長官に共和党の保守強硬派「フリーダム・コーカス(自由議連)」の中心的人物であり、「ウルトラMAGA:Make America Great Again 米国を再び偉大にする」と呼ばれるマット・ゲーツ下院議員(共和党・南部フロリダ州)を起用した。ゲーツは、自身の政治目標を達成し、権力を増大させていくには、トランプの権力をバックにして、彼の政策をそのまま支持し、遂行していけば良い。 要するに、この2人は、対立する要素が少ない。殊に、ゲーツは、性的不品行や違法薬物使用で米連邦捜査局(FBI)の捜査を受けたが起訴されなかった。ゲーツのFBIに対する敵意も同じで、そこから「FBI潰し」の実現を実行に移す第一歩を踏み出そうとしている。一方、トランプはFBI、特にジャック・スミス特別検察官に相当な敵意を抱いている。 トランプは「完璧な忠誠心」のあるゲーツを選んだ。というのは、前述の通り、第1次トランプ政権で任命した2人の司法長官とは違い、トランプに不利な証言をしたり、行動をとらないからだろう。 米最高裁判所がトランプに免責特権を与えたが、次の4年間で彼は再度、不正を犯す可能性がある。本来であれば、司法省はホワイトハウスから独立した機関であるが、トランプは、ゲーツを通じて司法省を自分の支配下に置くことを目論んでいる。
過度な「忠誠心」の落とし穴
トランプ人事のもう1つの特徴は、「強硬」である。トランプは、大統領補佐官(国家安全保障問題担当)に、マイケル・ウォルツ下院議員(共和党・南部フロリダ州)を指名した。ウォルツは、下院軍事委員会や外交委員会に属しており、中国に対しては「強硬派」である。国務長官には、マルコ・ルビオ上院議員(同)が起用され、国防長官はトランプ寄りの米FOXニュースの司会者ピート・へグセス氏を指名した。中国を巡るトランプチームは、強硬色で染められた。 また、トランプは、不法移民対策でも大量に国外送還を実行すると公約しており、こちらも移民強硬派のスティーブン・ミラー氏を起用した。第1次トランプ政権でも、ミラーは不法移民の親と子を別の収容所に入れるなど、人権の観点からすると、かなり問題が大きい政策を実行した人物だ。 さらに、トランプは国土安全保障省長官に、サウスダコタ州知事のクリスティ・ノーム氏を指名した。ノームは、選挙期間中、トランプのいくつかの市民集会で司会を務めた人物で、メキシコとの国境地帯を「戦闘地域」と呼んだ対移民強硬派である。 以上、トランプの人事の「忠誠心」/「忠実」と「強硬」について、述べてきたが、この人事にはいくつかの問題がある。その内の1つは、上院における承認の問題である。上院の承認を得るには、厳しい公聴会を通らなければならない。その際、トランプが指名した人物は、「身体検査」を受け、経歴も思想も、身体検査を潜り抜けなければならない。 その過程で、辞退者が出る可能性がある。トランプはそれを回避するために、「裏技」を使うのではないかと囁かれている。その裏技とは、議会を休会にして、承認のプロセスを行わずに、指名した候補を任命することであると、BBC(英公共放送)や米メディアは報じている。少なくとも10日間の休会が必要で、それを「理由」にして任命を行うのだ。ニューズウィーク(電子版)によれば、過去にバラク・オバマ元大統領は32回、ジョージ・W・ブッシュ元大統領は171回、ビル・クリントン元大統領は139回、この裏技を使用した。こうしたプロセスは、議会軽視と民主主義を巡って対立を深めるかもしれない。 それ以上に危惧されるのは、この人事の「落とし穴」である。心理的視点に立つと、過度に忠誠心が高く、過激な政策を支持するメンバーで固めた集団は、意思決定において極端な方向へ振り子が揺れ、間違った決定を下す可能性がある。第2次トランプ政権には、この危うさが潜んでいる。その代償を払うのは、米国民、日本そして世界の人々になるのだ。
海野素央