「AIに特化」ではない…最新技術への追従よりも信頼性を重視、「VAIO」の新モデルが示した興味深い選択の背景
「今回あえて開発期間を延ばしたのは、より長期の耐久性テストや限界試験を行うためです」と黒崎氏は説明する。「6~7年使われる製品として、信頼性を最優先しました」 ただし、それは最新技術を完全に無視するという意味ではない。新製品には、AI時代に向けてIntelが開発した最新のCore Ultraプロセッサーを採用。NPU(Neural Processing Unit)と呼ばれるAI処理専用チップを搭載し、Windows Studio Effectsなどの機能に対応している。
そのうえで、実際のビジネスシーンで求められる機能の完成度を徹底的に追求した。3つのマイクを搭載し進化したAIノイズキャンセリングは、背面の声も確実に除去できるようになり、オフィスでのWeb会議での課題を解決。最軽量構成で948gという軽量化と合わせ、場所を選ばない働き方を可能にしている。 さらに、熱可塑性カーボンと樹脂の一体成型による高剛性ボディの採用など、日本のものづくりの技術を結集。アンテナ部分の見えない美しい仕上がりと、高い強度を両立させている。
製品の意匠にも新たな挑戦を行っている。新色として投入された「ディープエメラルド」は、ビジネスシーンでの高揚感を追求して開発されたカラー。これまでのラインナップにない差し色としての個性を持たせつつ、ビジネス製品としての品位も備えている。さらに10周年を記念した「勝色特別仕様」や、全体を漆黒で統一した「ALL BLACK EDITION」といった特別モデルも用意。PCに触れる時間が増えた現代だからこそ、所有する喜びを感じられるデザインにもこだわった。
「お客様からは、製品自体の信頼性はもちろん、国内設計・開発チームによるきめ細かなサポートを評価いただいています」とVAIO 開発本部 プロダクトセンター プロダクトマネージャーの柴田雄紀氏は説明する。 「PCに愛着を持って使っていただくことは非常に重要です」と柴田氏は強調する。自動車のような嗜好品として大切に扱われることで、結果的に長期使用につながるという考えだ。 ■新たな価値提供の形 VAIOの選択は、PC市場における新たな価値提供の形を示唆している。最新技術への追従一辺倒ではなく、製品の信頼性とサポート体制を含めた総合的な価値を提供する。それは、持続可能なIT投資のあり方を模索する企業のニーズとも合致している。
PCメーカーとして「新しさ」と「信頼性」のバランスをどう取るか。VAIOの答えは、後者に軸足を置きつつ、実用的な進化を着実に積み重ねていくというものだった。それは、PC市場全体の成熟化を象徴する選択といえるかもしれない。
石井 徹 :モバイル・ITライター