「健康な人間」を「作れてしまう」ゲノム編集…天才科学者・山中伸弥が恐れる「ヤバすぎる未来」とは
「iPS細胞技術の最前線で何が起こっているのか」、「将棋をはじめとするゲームの棋士たちはなぜ人工知能に負けたのか」…もはや止めることのできない科学の激動は、すでに私たちの暮らしと世界を変貌させつつある。 【漫画】刑務官が明かす…死刑囚が執行時に「アイマスク」を着用する衝撃の理由 人間の「価値」が揺らぐこの時代の未来を見通すべく、“ノーベル賞科学者”山中伸弥と“史上最強棋士”羽生善治が語り合う『人間の未来AIの未来』(山中伸弥・羽生善治著)より抜粋してお届けする。 『人間の未来AIの未来』連載第10回 『遺伝子を「シュレッダーで破壊」!?…ノーベル賞科学者・山中伸弥が語る、ゲノム解読の意外過ぎる「ウラ側」』より続く
「都合のいい」遺伝子の書き換えが可能に…
羽生それぞれの配列の違いが、ある特性に関わってくることがわかってくれば、これまでわからなかったことや、できなかったことに可能性が開けるわけですね。 山中そうですね。ゲノムを解読するだけではなくて、今度はゲノムを自由に書き換える技術も、一気にこの数年で発展しました。 羽生いわゆるゲノム編集技術ですね。 山中そうです。ゲノム編集の技術はずいぶん前からありましたが、技術的に非常に難しくて効率が低く、しかも正確性にも欠けていました。それが2012年に「クリスパー・キャスナイン(CRISPR/Cas9)」という新しい技術が開発されて、その精度の高さと簡易さから一気に汎用性のある技術になりました。 クリスパー・キャスナインの技術の根底にある「クリスパー」と呼ばれる遺伝子配列を発見したのは、九州大学の石野良純先生です。この技術はDNAの狙った場所をピンポイントで編集することができます。だからDNA解析と編集の技術を組み合わせると、理論的には自分たちの都合のいいように遺伝子を書き換えることが可能になります。
「デザイナー・ベイビー」は許されるか
羽生そうすると、「デザイナー・ベイビー」と言われる、遺伝子操作で親が望むような外見や知能を持つ子を生み出すこともありうるということですか。 山中理論的には可能です。それをしていいかどうか倫理的な問題は別にありますけれど。 羽生たとえば身長180センチにすることも――。 山中『ネイチャー』に掲載された2017年の論文では、遺伝子操作によって身長を1cmくらい変えることができそうな遺伝子が24個報告されています。「遺伝子ドーピング」[特定の遺伝子を筋肉細胞などに注入し、運動能力に関わるタンパク質などを作る手法]によって筋肉量を増やした牛や魚は、すでにつくられています。 牛でつくることができるということは、理論的には人間でもできます。それはどこまで許されるのか、人間の倫理が科学技術に追いつけるかという問題ですね。