「健康な人間」を「作れてしまう」ゲノム編集…天才科学者・山中伸弥が恐れる「ヤバすぎる未来」とは
ゲノム編集は「倫理的に」可能なのか?
羽生一方で遺伝的な病気などを、生まれる前に防げるようになる可能性もあるということになりますね。 山中はい。それに向けた研究も一部の国では始まっています。生まれつきの病気を治そうとすると、受精卵の段階でゲノム編集する必要があります。倫理的にそれをしていいかどうかが今、世界で大きな議論になっています。 2015年に中国の研究グループが、ゲノム編集を用いてヒトの受精卵で遺伝子改変を試みた結果を発表しました。中国の研究は遺伝子改変を行った胚を女性の子宮に移植することはしていませんが、学術誌からマスメディアまでその是非をめぐって世界で大論争になりました。アメリカもヒト受精卵のゲノム編集を条件付きで進めていくことになっています。 羽生国際的な学会や団体で、ゲノムに関わる大枠のルールを作ろうとする動きにはならないんでしょうか。 山中各国ごとに文化や歴史の違いがあって、世界で統一するのはなかなか難しいんです。今のところ、受精卵を使った基本的な研究はやるべきだろう、ただ実際にその受精卵から新しい生命をつくることは当面はやめよう――というのが、多くの研究者のコンセンサスだと思います。日本はまだ、その辺りの議論が紛糾しています。
山中伸弥教授の「解答」
羽生山中先生は、どの辺りまでが許されるとお考えなんでしょうか。 山中難しいですね。生命科学の技術を使って、なるべく「健康な子供」が生まれてくるようにすることは、先ほどのデザイナー・ベイビーと言われるような「強い子供」が生まれるようにすることにとても近いんです。 羽生そうですね。 山中でも、まず基礎研究はやっていかなければ技術の見極めもできません。とは言っても、やはりルールは必要で、どんな研究を、誰が、どこで、どんな目的でやっているか、透明性を高めることが大前提です。その上で、ほぼ確実に遺伝する遺伝子疾患の予防目的といった厳格な条件下で、少しずつやっていかなければダメじゃないかなと思っています。
山中 伸弥、羽生 善治