歌手・門倉有希さん、愛する猫に似た美しいまなざし 過度なストレスや食生活が偏る女性は若くしてがんに罹る…医師の実感
【ドクター和のニッポン臨終図巻】 ♪やめて、下手な噓…ちょっとハスキーな声の女性がカラオケでこの歌を唄うと、なぜか急にいい女に見えてしまう。そんな魔法にかかるのが、『ノラ』という歌。 【画像】乳がんの発生部位と広がり方 僕はスナックで何度もこの曲を聴いていて、「誰の歌やろ?」と気になっていたのですが、その後にテレビで本人のお顔を知りました。悲しげに歌う美しいまなざしが、歌のヒロイン像にピッタリでした。 歌手の門倉有希さんが、6月6日に都内の病院で死去されました。享年50。死因は乳がんとの発表です。この連載で乳がんという死因を書くのは久しぶりのこと。女性の部位別がん罹患(りかん)数の1位は乳がんで、がん全体に占める割合は22.5%。次が大腸がんで15.7%。その次の肺がんと胃がんがそれぞれ10%弱と、乳がん罹患率がダントツに高いのです(2019年、厚労省/国立がん研究センター) 一方、がんの種類別死亡率は、大腸がんが一番高く、肺がん、膵臓(すいぞう)がん、乳がん、胃がんの順番となっています(2022年、厚労省)。このように数字だけを見れば、乳がんは罹る人は多いけれど、死に至ることは少ない、怖くないがん、というイメージがありますが、それでも、年間1万4000人が命を落としているのが現実です。 門倉さんに乳がんが発覚したのは2019年2月のこと。貧血で倒れて緊急入院した際、検査で乳がんが見つかりました。その半年くらい前から、左胸の脇あたりに虫刺されのような、小さなポツポツができていたそうです。皮膚科に行くと湿疹と診断され、軟膏(なんこう)を塗っていましたが、それでも湿疹は治らなかったといいます。 入院先の医師からは、乳がんになった要因は、極度の栄養失調によるホルモンバランスの乱れだといわれたそうです。門倉さんは食べられないものが多く、ファストフードやお菓子が主食がわりだったと語っています。 がんになる背景はさまざまで、すべての要因が食生活にあるとはいえません。しかし過度なストレスや食生活が偏っている女性は、若くしてがんに罹ることがあるのが医師としての実感です。そういう女性には、今の美しさより10年後の健康が大切だからきちんと食べようね、と助言をしています。 門倉さんはその後、食生活を改善し、抗がん剤や放射線で治療を続けました。そして、「私には歌しかない」とステージに立ち続けました。私生活では大の猫好きで、小動物介護士や小動物看護士などの資格も持っていたといいます。だから自分の食事より猫の食事に気を使っていたとも。