奥山大史監督ならではの映像美で紡ぐ少年の成長 光に包まれたスケートシーンは特筆もの 映画『ぼくのお日さま』レビュー
◆瑞々しくて切ない、淡い恋たちの物語
長編初監督作『僕はイエス様が嫌い』(2019)で、史上最年少となる22歳で第66回サンセバスチャン国際映画祭の最優秀新人監督賞を受賞した奥山大史監督の最新作『ぼくのお日さま』。ハンバート ハンバートの同名タイトルの楽曲からインスピレーションを得て生まれた、美しいスケートシーンが満載の、瑞々しくて切ない、淡い恋たちの物語だ。 【動画】池松壮亮らのカンヌでの映像&役所広司のコメントも! 映画『ぼくのお日さま』予告編解禁 雪が積もる田舎街に暮らす小学6年生のタクヤ(越山敬達)は、すこし吃音がある。タクヤが通う学校の男子は、夏は野球、冬はアイスホッケーの練習にいそがしい。 ある日、苦手なアイスホッケーでケガをしたタクヤは、フィギュアスケートの練習をする少女・さくら(中西希亜良)と出会う。「月の光」に合わせ氷の上を滑るさくらの姿に、心を奪われてしまうタクヤ。 一方、コーチ荒川(池松壮亮)のもと、熱心に練習をするさくらは、指導する荒川の目をまっすぐに見ることができない。コーチが元フィギュアスケート男子の選手だったことを友達づてに知る。 荒川は、選手の夢を諦め東京から恋人・五十嵐(若葉竜也)の住む街に越してきた。さくらの練習をみていたある日、リンクの端でアイスホッケー靴のままフィギュアのステップを真似て、何度も転ぶタクヤを見つける。 タクヤのさくらへの想いに気づき、恋の応援をしたくなった荒川は、スケート靴を貸してあげ、タクヤの練習につきあうことに。 しばらくして荒川の提案で、タクヤとさくらはペアでアイスダンスの練習をはじめることになり…。 子ども2人に大人1人というメインキャラクターの3人。それぞれ恋をしているけれど、その愛情表現も、恋模様の行方も三者三様だ。「雪が降りはじめてから雪がとけるまでの少年の成長を描きたい」と企画をスタートさせた奥山監督が、ハンバート ハンバートの楽曲「ぼくのお日さま」と出会い、その歌詞を聞いた途端「主人公の少年の姿がはっきり浮かび、物語がするすると動きだした」という。 楽曲「ぼくのお日さま」は、生きづらさを抱える人の心にそっと優しく寄り添うような温かみのある名曲。ハンバート ハンバートが2014年に発表したアルバム「むかしぼくはみじめだった」に収録されており、これまで主題歌オファーがあっても断ってきたほど大切な楽曲だったが、奥山監督からの手紙を読んでオファーを快諾したという。 奥山監督は当初2人の男の子と女の子が登場するフィギュア映画を考えていたが、別のプロジェクトで池松壮亮と仕事をしてその佇まいに魅了され、この物語に大人の目線を加えたいと思ったことから「夢に敗れた元フィギュアスケート選手のコーチ」という池松のキャラクターが生まれた。