「寝台列車はロマン」だけ? 伝統の列車が風前の灯 “夜行復活ブーム”から取り残された英国らしい苦境
寝台列車ブームに取り残された孤高の英国
ドーバー海峡を挟んだ対岸のEU加盟国でも、日英と同じく、フランスと東欧を結んだシンプロン急行や北急行といった超が付くほど有名な夜行列車が次々と廃止になり、2017年頃には「寝台列車の終焉(しゅうえん)」が議論されるほどまで落ち込みました。 ところが、スウェーデンの環境活動家、グレタ・トゥンベリ氏が飛行機利用者を「飛び恥(Flight Shame)」と評したのをきっかけに、2019年頃から飛行機で飛び回る人への風当たりが強くなり、一度廃止になった寝台列車が次々に復活したり、ベンチャー企業の新しい路線開通が相次いだり、空前の寝台列車ブームとなっているのです。 例えば、2014年に廃止された仏パリ~独ベルリン間の国際寝台列車が、2023年にオーストリア鉄道のもとでサービスを再開しました。 環境意識の高まり以外にも、「預けた荷物がなくなった」などのトラブルや、テロ対策で空港のセキュリティ・チェックが厳しくなり、長蛇の列が常態化しているなど、空の旅の魅力が相対的に減っていることもあるのではないかと、個人的には感じます。 また、2020年にベルリンの空港がベルリン州外に移ってしまい、空港から市中心部へのアクセスが悪くなったことも影響しているのではないでしょうか。パリの東駅からベルリン中央駅に直接乗り付けられる寝台列車の方が魅力的に映るのも不思議はありません。 こうした、EUの空前の寝台列車ブームにも英国は参加できていません。ドーバー海峡のトンネルをくぐってEU各国まで寝台列車を走らせる構想はありますが、海底トンネルでの万が一の火災に備えて車両基準を上げる必要があり採算が取れない(米誌『WIRED』による)など、問題が山積していて実現はなかなか難しいようです。 自らEUから距離を取る孤高の決断を取った英国。寝台列車の新しい時代の幕開けに沸くEUの「熱」からも、少し距離があるようです。
赤川薫(アーティスト・鉄道ジャーナリスト)