現場検事「逮捕待った方が」 取り調べ中断し進言、拒んだ特捜部主任
業務上横領の疑いで大阪地検特捜部に逮捕・起訴され、無罪が確定した不動産会社の元社長が国に賠償を求めている訴訟で、捜査検事の1人が「逮捕は待ったほうがいいと主任検事に伝えた」と説明していることがわかった。国が大阪地裁に提出した書面を朝日新聞が確認した。 【写真】カメラの前で「検察なめんな」 140時間の映像、文字に起こし分析 この検事(46)は6月の証人尋問に出廷する検事4人のうちの1人。国側は「違法捜査はなかった」と元社長側の請求を棄却するよう求めているが、現場の検事が「待った」をかける中で逮捕に踏み切った、捜査の一端が浮かび上がった。 大阪市の不動産会社「プレサンスコーポレーション」元社長の山岸忍氏(61)は、学校法人の土地を巡る着服事件で「共犯者」の証言をもとに2019年12月に逮捕・起訴された。 ■国賠訴訟、提出の書面に 証人尋問を前に、国は検事がそれぞれ経緯を説明した4人分の書面を提出した。「進言」をした検事の書面によると、この検事は、先に逮捕された法人の元理事を取り調べた。元理事は逮捕後にいったん元社長が事件に関与したとする供述をしていたが、その後に「これまでの供述を全て撤回する」と検事に申し出た。 検事はこの日の取り調べ前、捜査を指揮する主任検事(51)から「元社長の逮捕状を請求している」と告げられていた。特捜部は元理事らの供述を根拠に、「元社長も共犯者」と見立てていた。 検事は「元理事が供述の撤回を申し出た以上、その信用性はより慎重に検討すべきだ」と考え、取り調べを中断して主任に報告し、「逮捕は待ったほうがいいと思います」と進言したという。 さらに「元社長の関与を認めた供述調書を訂正したい」という元理事の要望も主任に伝え、対応を求めた。しかし主任からは「撤回前の供述のほうが信用できる。変遷の経過は録音録画に残っているので訂正の必要はない」と拒まれたという。 元社長はこの日、逮捕された。書面で検事は「最終的には主任の判断」と説明している。 元社長は一貫して無罪を訴えたが、地検は関与を認めた元理事と元社長の部下の供述調書を立証の柱に据えて起訴した。
朝日新聞社