日韓通貨スワップ復活へ議論 日本にメリットはあるの?
いまなぜ再開の動きがある?
では、なぜ日韓通貨スワップ再開の議論が始まったのでしょうか。韓国はGDPでみるとそれほど減速感は強くないものの、韓国経済の中心である貿易が不振なためだと考えられます。輸出低下の背景に、構造的な問題(たとえばコスト高や国際競争力の低下、スマートフォンへの依存など)があるとすると、韓国企業に多く入っている外国資金が他へ出ていく可能性が高くなり、金融面でも通貨安圧力が生じることになります。米国の金利利上げも影響するでしょう 図2は韓国の輸出額(ドル)とその変化率を輸出先地域別について要因分析したものです。これをみると2012年ころから韓国の輸出は伸び悩み、さらに2015年以降減少していることが分かります。よく指摘される中国への輸出だけではなく、東南アジアやEUへの輸出の減少も大きな要因となっています。このことから世界経済の減速のほかにも、韓国は輸出産業における構造的な問題を抱えていることが示唆されます。 例えば韓国で1位、世界でも7位の海運会社である韓進海運が経営破綻に直面しています。さらに現代商船の業績悪化も報じられています。価格下落があったとはいえ、海運の低迷は輸出力の低下を表しています。 現在のところウォン安とはいえず、むしろ今年の2月頃からはややウォン高傾向です。けれども、構造的な問題を抱えているため、韓国政府は将来の通貨危機の可能性を深刻に感じて、今回の議論再開要請となったのではないでしょうか。
日本は再開すべきか?
以上から分かるように、日韓通貨スワップは日本による韓国ウォンへの保証協定です。日本側のメリットは韓国通貨危機発生が、日本経済に影響を与えることを防げることですが、必ず再開すべきというほどには大きくはありません。世界金融危機後にシャープなどの日本家電メーカーと韓国企業との競争が厳しくなりましたが、為替については、ウォン安は一時的だったので、どちらかといえば円高の影響でした。 日本にはメリットもデメリットもそれほどないため、通貨スワップ再開は政治判断となります。韓国の反日・親中的な政策の流れで満期終了した経緯もあるため、再開には日本国民の納得のできる条件も必要でしょう。少女像の撤去、竹島、不透明な為替介入、二股外交などさまざまな問題がありますので、私は単に以前行っていたものを再び行うという流れでの再開は必要ないと思います。議論の中で、これらのような広い範囲の利害関係を日韓双方で確認してからにすべきでしょう。
------------------------ ■釣 雅雄(つりまさお) 1972年北海道小樽市生まれ。一橋大学経済研究所助手などを経て、現在、岡山大学大学院社会文化科学研究科教授、日本経済などの授業を担当。専門はマクロ経済学や経済政策。著書に『入門 日本経済論』(新世社)など。博士(経済学)