SBI証券のIPO初値操作で露呈 独立性なき仲介業者、IFAの利益相反
3月21日、証券会社の業界団体である日本証券業協会は、インターネット証券最大手のSBI証券に対して、過怠金(罰金)1億円を科すと発表した。言わずもがな、23年12月に問題が発覚した、SBI証券の不祥事を受けての処分である。 「市場の公正性、証券業務の信頼性を揺るがしかねない事態である」。処分発表に当たり、日証協の森田敏夫会長はこのように述べ、事の重大さを踏まえた上での処分である点を強調した。 SBI証券にて、自身が主幹事を務める新規株式公開(IPO)3銘柄の初値が公開価格を下回らないよう、不正につり上げていた問題が発覚したのは23年12月。当時の執行役員らが主導する形で、提携する金融商品仲介業者(IFA)などに指示し、個人投資家などから買い注文を出させることで、株価を支えさせていた。金融庁は問題発覚を受けて1月、SBI証券に1週間の一部業務停止命令を科すとともに、業務改善計画の提出を求めた。 これを受けて2月にSBI証券から出された改善策では、上場前にIPO銘柄を勧誘しないことや、コンプライアンス(法令順守)統括機能の強化などが盛り込まれた。今後はこうした取り組みを通じ、問題再発を防ぐ体制を整備していくものとみられる。 SBI証券にしてみれば、株価操作の問題は早々に決着をつけ、前を向きたいのが本音だろう。日経平均株価の4万円突破に象徴される好調な運用環境、新しい少額投資非課税制度(NISA)のスタートと、証券会社には今、空前の追い風が吹いている。 SBIグループ全体の証券口座数も2月5日に国内の証券会社で初めて1200万口座を突破。9月に1100万口座を達成してからわずか4カ月での快挙で、不祥事をものともしない様子を見せている。 だが見方を変えれば、口座数や預かり資産の数字を見る限り盤石な地位を築いているSBI証券ですら問題を起こしているというのは、証券業で稼ぐのがそれだけ難しくなっているということだ。 「資産形成層」と呼ばれる、これから資産運用を始める層は、投資信託の積み立てなど小口投資が中心なので、信託報酬など、預かり資産の残高に応じてもらえる手数料収入の上積みは限られる。一方で、株式やFX(外国株式証拠金)取引をはじめとする売買手数料の引き下げは競争が激しく、株式に関してはSBIだけでなく業界2位の楽天証券に関してはゼロに到達した。 顧客の数を増やしても、大幅な手数料収入や預かり資産の増加は見込めない。そこでネット証券が活路を求めるのが、多額の金融資産が見込める、金融資産1億円以上の「富裕層」そして、1000万~5000万円の「準富裕層」と呼ばれる層の取り込みだ。SBIが「第4のメガバンク構想」を掲げ、複数の地方銀行に対して経営支援をしたり、自社の商品を提供したりするのも、提携先の地銀の顧客が持つ資産を獲得し、収益機会を拡大させるのが狙いにほかならない。 あの手この手で金融資産を持つ層にアクセスしようとする中で、期待を寄せるのが、今回の株価操作問題でも登場した、IFAとの連携だった。