野尻智紀が育った茨城・筑西市の名物は“魔改造軽トラ”!? 母校訪問の裏に隠された想いも明かす【連載:レーサーふるさと自慢】
人にはそれぞれ、生まれ育った“故郷”というものがある。そんな故郷について、国内レースを戦うレーシングドライバーに語ってもらう本企画。今回はスーパーフォーミュラで2度のチャンピオンに輝いた野尻智紀のインタビューをお届けする。 【写真】スーパーGTセパンテスト:フォトギャラリー 野尻の地元は、茨城県の筑西市。県の西部に位置し、いわゆる“平成の大合併”によりいくつかの市町が合併してできた、人口10万人ほどの市だ(野尻は旧関城町出身)。野尻はこれまでのレースでの活躍もあり、現在は「いばらき大使」「筑西ふるさと大使」に任命されており、昨年はスーパーGTの所属チームであるARTAと共に筑西市で課外授業を実施。自身も卒業式や成人式で訪れたという市の生涯学習センターで、母校である筑西市立東小学校と関城中学校、そして筑西市立西小学校の児童・生徒に向けて講演やエンジン始動・タイヤ交換のデモンストレーションを行なった。 そのARTA学校訪問の際に実施したインタビューでは、茨城や筑西市の“あるある”やおすすめスポットだけでなく、野尻が学校訪問を通して伝えたかった思いなど、深い話もあったり……。 ――「筑西ふるさと大使」の野尻選手ですが、地元にはいつ頃までいらっしゃいましたか? 野尻「24歳、25歳で東京に出たので、スーパーフォーミュラにデビューして1、2年くらいは地元にいました。高校の時に1年間ヨーロッパにいましたが、それ以外は基本地元にいました」 ――比較的長くいらっしゃったんですね。地元に帰ってきて、茨城や筑西を感じる瞬間って何かありますか? 野尻「なんだろうなあ。難しいですけど……野焼きとか?(笑) その辺のおじさんたちが訛ってるとか。あとトラクターが道を走っていて、タイヤについた土が跡になって道に残ってるとか(笑)」 ――地方らしい非常にのどかなエピソードですね(笑) 野尻「あとは最近あまり見ないですけど、屋根のない軽トラとか」 ――屋根のない軽トラですか!? 野尻「この辺りは梨畑が多いんですけど、梨の木って低いので、そのまま手で収穫ができるんですよね。それで収穫した梨を運ぶのに、軽トラの屋根をぶったぎった軽トラがあるんですよ」 ――(スマホで検索して)なかなかインパクトのあるビジュアルですね……。もちろん公道は走っちゃダメですが、梨畑を移動する上で便利な形に改造されているってわけですね。茨城は梨畑が多いんでしょうか? 野尻「地域によって農産物は違いますが、この辺は梨畑が多いです。うちの祖父も梨を作っていましたね」 ――その他、行きつけのお店だったり、有名な郷土料理があれば教えてください。 野尻「行きつけはあまりないんですよね。僕の友達は地元の料理屋さんによく行ったりしますけど」 (その頃、学校訪問イベントのサポートで訪れていた野尻の学生時代の同級生が登場。市役所で勤務していたということもあり、様々な補足をいただいた) 同級生「(郷土料理は)けんちん汁とか、筑西市で言えばしょうびき餅、あとはしもつかれとか」 野尻「しもつかれは見た目がダメですね~」 ――調べると、鮭の頭や大根、人参などを煮込んだ料理と。確かに見た目は綺麗な感じではないですね……。 野尻「この辺とか、栃木とかの料理だよね。祖母が作ってましたね」 同級生「家庭によって入れる具材が違うので、味が違いますね」 ――確かに栃木名物として紹介されていたりしますね。 野尻「筑西市は栃木県に近いので、栃木と文化や言葉が一緒なところがあったりします」 ――東北寄りの地域や、東京寄りの地域はまた違っていたりするかもしれませんね。 野尻「どうなんでしょうね。それこそ守谷(守谷市:県南部の市。東京都心からも比較的近い)とかどうなんだろう」 同級生「TX(つくばエクスプレス)の駅ができたからね」 野尻「東京に染まってますね(笑)。あの辺はベッドタウンということで人気ですし」 ――話題を変えて、茨城や筑西の名所やおすすめスポットなどはありますか? 野尻「……ダイヤモンド筑波かな」 ――それはどういったものでしょうか 同級生「富士山の山頂から朝日が出て、それが水面に光るという“ダイヤモンド富士”ってありますよね。それの筑波山バージョンだと思っていただければ。筑西市に母子島遊水地という遊水池がありまして、毎年2月と10月にそこから見ることができます。この時期にはカメラマンさんもたくさんいますね」 ――やはり筑波山は地元の中でも人気のスポットなのでしょうか。 野尻「県内だとそうですね。結構気軽に登れるんですよね」 ――高尾山などと比べると……? 野尻「少し険しいですが、フル装備とまではいかなくとも、普通に運動する格好で行けば全然登れるくらいで、結構人気があります。あと景色が良いですね。空気が澄んでくると、東京の方も見えるようになります」 同級生「山頂からスカイツリーも見れたりします」 野尻「あと、ひまわり(フェスティバル)もやってますね。夏に」 同級生「2週間くらいのスポットでの開催ですが、来場者数は十数万人くらいになりますね」 ――夏でも冬でも自然を満喫できそうですね。続いての話題は課題授業についてです。ご自身の成人式などで訪れた生涯学習センターで、母校の生徒たちと触れ合って、いかがでしたか? 野尻「最初は、講演のお話を地元のロータリークラブの方からいただいたんですよね。ただ、ひとりで講演しても形にならなさそうだと思いました。できるのであれば、昔ARTAさんとGTA(GTアソシエイション)さんでやっていた学校訪問を復活させられないかという話をしました。そうしたらクルマも持ってこられますし、もう少し色々な体験ができるだろうということで」 野尻「レースって、ちょっと遠い存在だと思うんですよね。学校にレースの部活があるわけでもないですし。普通に学校に通っていると、どうしても野球やサッカーがメインになってきます」 野尻「学校で活躍できる人ってものすごく少数だなと思うんですよね。でも学校に行っていると、そこが全てに感じてしまう。そういう視野をなるべく広げられるような取り組みも必要だよなと少し前から思っていましたが、今回タイミング良くこういう機会をいただけました。子供たちに『色々なものがあるんだな』と思ってもらって、少しでも視野が広がればいいなと思います」 ――確かに学生の間って、学校内でのスクールカーストが全てのように感じてしまいがちですよね。その狭い世界の中でうまくいっていないと、「自分ってダメだな」って思ってしまったり。 野尻「そうなんですよ。でも活躍の場って他にもたくさんあるんですよね。正直、今レースで活躍している人たちって、学校の中で目立つ存在だったという人は割合的には少ないんですよね。やっぱり学校では、野球やサッカーをやっていたり、運動ができる子が目立つ存在になるじゃないですか。でも僕たちはこうやってレースの世界で活躍している。メカニックさんたちもそうかもしれない」 野尻「自分も学校の中で特に目立つ存在ではなかったし、野球やサッカーをやっている子たちと比べたら運動もできないし……という思いもすごくあったので、学校ではできないことに対して劣等感を感じることが多かった気がします。でも、他のところで自分が上手にできることや好きなことを見つければ、それなりに自分に自信を持つことができますからね」 ――おっしゃる通り、課外授業を受けた子供たちがみんなレースを好きにならなくても、視野が広がるだけでも大いに意義がありますよね。ありがとうございました。
戎井健一郎
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