垣間見えるNYアンダーグラウンドの世界 ウィリアム・フリードキン『クルージング』予告編
11月8日よりシネマート新宿ほかにて全国順次ロードショーされるウィリアム・フリードキン監督作『クルージング』の本予告が公開された。 【写真】『クルージング』場面写真 本作は、『フレンチ・コネクション』でアカデミー賞作品賞と監督賞ほか5部門を受賞し、続く『エクソシスト』の世界的大ヒットでオカルトブームを巻き起こして2023年に亡くなったフリードキン監督の1980年の作品。主演は当時からトップスターだったアル・パチーノが務めた。日本では43年ぶりの再公開となる。 題材は、1973年から1979年にかけ、ニューヨークで実際に発生した猟奇連続殺人事件。ゲイの男たちが惨殺され、バラバラにされた死体の一部はビニール袋につめられ、ハドソン川に投げ捨てられていた。被害者たちの多くは、男同士が毎夜ハードなセックスを求めて集うSMクラブに出入りしていた。興味を抱いたフリードキン監督をさらに驚かせたのが、逮捕された事件の容疑者が、『エクソシスト』の病院での検査場面に出演していた放射線科の看護師だったことだった。その容疑者への刑務所での面会体験、元NY市警の友人に取材したゲイ・コミュニティ潜入捜査談、そして自ら足を運んで目撃した、想像を絶するSMクラブ内の狂態を脚本に盛り込み、フリードキン監督は、NYアンダーグラウンドのゲイカルチャーを背景にしたクライムサスペンスを完成させた。 本国での製作発表時から同性愛差別を助長する内容だとして、全米各地で猛烈な抗議活動を受け、公開時には非難も多く、興行も振るわなかった。日本では“ハードゲイ”という言葉を定着させた作品として知られている。しかし最近では『パルプ・フィクション』のクエンティン・タランティーノ、『ドライヴ』のニコラス・ウィンディング・レフン、『燃ゆる女の肖像』のセリーヌ・シアマらが本作をフェイバリット作品として挙げるように。さらに、HIVウイルスが世界に蔓延する前のゲイカルチャーを記録した作品として再評価も進んでいる。 公開された予告編の舞台は夜のニューヨーク。映像は、青と黒のトーンで統一され、あやしく退廃的な雰囲気が立ち込めている。そんな中でひときわ輝くナイフと黒いサングラス。ゲイの男性ばかりが狙われる連続殺人事件を探るため、NY市警のバーンズ(アル・パチーノ)はSMクラブでの潜入捜査を開始する。そこで彼が目撃するのは、レザージャケットや黒のタンクトップ、鋲打ちのベルトやデニム、レザーハットにそろって身をつつんだ大勢の男たち。彼らが互いを見定め、踊り狂うSMクラブでの様子は、汗や煙の匂いも伝わるほどの熱気に満ちていた。 フリードキン監督は、撮影を警察やゲイ・コミュニティの人々と交流を重ね、当時ロウアー・イーストサイドに実在していた「マインシャフト」や「アンヴィル」という、ゲイのサディストとマゾヒスト以外は立入禁止のSMクラブ内で行っており、SMクラブ内の男たちは実際の常連たちが演じている。 最初は当惑するバーンズだったが、やがてその世界に身も心も浸されていく。映像は、人間の性と殺人鬼の暗黒の最深部を覗き込んだバーンズの瞳が、こちらに不穏な眼差しを投げかけるところで幕を閉じる。
リアルサウンド編集部