恋愛に暴走するのは「なにもない」から? 『恋てん』は大人になりきれない私たちの必読まんが
東京は自然と尻を叩いてくれる街
――東京に夢はあると思われますか? 難しい質問ですね。一応漫画家としてデビューしたので、そういう意味ではあったのかなと思います。東京にいると、自然と尻を叩かれてる感じがします。だから私、一回東京を離れて関西でしばらく暮らしていた時期があるんですけど、また東京に戻ってきたのはやはりそれを求めてですね。東京は、「描かなきゃ」と思わせてくれる。 ――夢を叶える場所として、また東京を選んだ。 そうですね。1回目の上京と同じ淡い期待かもしれないんですけど、もう一度出てきたら今度はできるかもという感じはありました。東京は夢を見させてくれる街なのかもしれません。 ――今、改めて東京で生活をしていてどうですか? 今は東京の生活が長くなるほど、東京への憧れやときめきは薄れてしまって、また違う地方にも住みたいなとぼんやり考えてしまう時もあります。でも東京から離れたら、また漫画を描けなくなるんじゃないかという恐怖心もあります。 ――『恋てん』の主な舞台は大阪ですね。 東京に執着しながら、大阪のことを描いているという感じです。大阪にも私は思い入れがあるので。大阪は他者との距離感がすごく近い気がしますね。それがしんどい時もあれば、優しく感じられる時もありました。たとえばスーパーに行っても隣にいたお客さんが自然に話しかけてくる。本当に知り合いのような距離感ですよ。別に嫌な感じでもないんですよね。東京では干渉されなさに心地よさを感じる一方で、大阪の人情みたいなものにも惹かれてしまいます。でもバイト先の人に距離感を詰められるのはちょっとしんどかったですね。詮索されたりはしたくない。 ――2巻では駅のホームで号泣するカイちゃんに、おばちゃんが優しく接するシーンがありました。私も恥ずかしながら、あんな感じで他人の前で泣いたことがある側の人間です。 ありますよね。実は、多くの人が経験のあることだと思います。場所や状況関係なしに、今どうしようもなく涙が出てしまうこと。 世良田波波(せらたなみなみ) 兵庫県明石市出身。18歳で上京し、その後紆余曲折あり大阪で暮らす。現在は東京都在住。2006年に『アックス』(青林工藝舎)にて誌面デビュー。『恋とか夢とかてんてんてん』が初連載となる。
綿貫大介