「地面師たち」会話のビートがグルーヴを生む、ダークヒーロー・ストーリー ※注!ネタバレ含みます
※本記事は物語の核心に触れているため、映画をご覧になってから読むことをお勧めします。 Netflixシリーズ「地面師たち」あらすじ 再び土地価格が高騰し始めた東京。辻本拓海(綾野剛)はハリソン山中(豊川悦司)と名乗る大物不動産詐欺師グループのリーダーと出会い、「情報屋」の竹下(北村一輝)、なりすまし犯をキャスティングする「手配師」の麗子(小池栄子)、「法律屋」の後藤(ピエール瀧)らとともに、拓海は「交渉役」として不動産詐欺を働いていた。次のターゲットは過去最大の100億円不動産。地主、土地開発に焦りを見せる大手デベロッパーとの狡猾な駆け引きが繰り広げられる中、警察が地面師たちの背後に迫る。次々と明らかになる拓海の過去とハリソンの非道な手口。前代未聞の綱渡りの不正取引、迫りくる捜査......果たして100億円詐欺は成功するのか?
容赦のないダークヒーロー
大根仁は、時代と共に自分のポジションをどんどん変化させていったクリエイターだ。 「週刊真木よう子」(08)、「湯けむりスナイパー」(09)、「モテキ」(ドラマ:10 / 映画:11)などの深夜ドラマ(テレ東多め)を手がけた、サブカル・キング時代。『バクマン。』(15)、『SCOOP!』(16)、 『奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール』(17)などの映画を手がけた、カッティング・エッジなフィルムメーカー時代。そして「いだてん~東京オリムピック噺~」(19)、「エルピス-希望、あるいは災い-」(22)などの名作を手がけた、威風堂々たる巨匠時代。 そして2024年7月25日からは、Netflixシリーズ「地面師たち」が配信されている。おそらくこの作品は、大根仁にとってひとつの到達点であり、代表作と呼んで差し支えないのではないか。原作は、新庄耕による同名小説。2017年に発生した「積水ハウス地面師詐欺事件」をベースに、不動産所有者になりすまして莫大なマネーを騙し取る“地面師”の実態を描いた、クライム・ノベルだ。 かねてから大根仁は、モチーフとなった事件に関心を寄せていた。さっそく企画書を作成して売り込みに奔走するが、実在の詐欺事件を扱ったテーマだけに、映画会社やテレビ局は二の足を踏むばかり。そんな八方塞がりな状況で、手を挙げてくれたのがNetflixだった。結果的に「地面師たち」は、地上波ではなかなか踏み込めない過激描写を盛り込んだ、容赦のないケイパー・ドラマに仕上がった。 犯罪集団を描いたケイパーものの歴史は古い。古典でいうと、ジョン・ヒューストン監督の『アスファルト・ジャングル』(50)や、スタンリー・キューブリック監督の『現金に体を張れ』(56)。ゼロ年代以降でも、『オーシャンズ11』(01)、『ミニミニ大作戦』(03)、『グランド・イリュージョン』(13)、『ベイビー・ドライバー』(17)と、枚挙にいとまがない。日本の作品でも、高村薫の小説を映画化した井筒和幸監督の『黄金を抱いて翔べ』(12)などが挙げられる。 そのなかでも「地面師たち」は、非常に特異な位置を占めている。『アスファルト・ジャングル』のようなフィルムノワールではないし、『オーシャンズ11』のように軽妙洒脱なコメディ・タッチでもない。犯罪者を主役にする場合、視聴者が彼ら・彼女らに感情移入できるように、同情の余地を与えるようなバックストーリーをインサートさせたくなるものだが、主人公の拓海(綾野剛)以外はそんな描写もない。いっさいの感情移入を拒む存在であり続けているのだ。 ドラマ「ハウス・オブ・カード 野望の階段」(13-18)に登場する、権力を手中に収めるためにはどんな手もいとわないフランク下院議員(ケヴィン・スペイシー)のような、容赦のないダークヒーロー。このドラマは、悪の魅力に満ちている。
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