小倉智昭「コレクション用の部屋を畳み、荷物を入れた自宅から妻と義母が出て行き…。一人暮らしで妻との仲がより親密に」
◆お互いに和やかに、優しくなれた 別居婚が始まって以来、スマホは便利だなって思うようになった。妻とは、おはようとおやすみ以外にも「今取材が終わりました」とか、こまめに連絡をとっているの。既読にならないと心配したり、付き合いたてのカップルみたいだよね。 僕らはもともと仲がいい。射撃やゴルフも一緒にやってきたし、妻は僕の事業を支えてくれた。言い争うこともほとんどないし、あったとしても次の日に持ち越すことがない。膀胱がんになった時は、手術で男性機能を失うことを知って逡巡しました。自分の場合は命を優先して手術を受けたんだけど、信頼してるもの同士なら広義の意味ではセックスに近い結びつきが持てるってわかったんだ。それはお医者さんも知らなかったことだよ。 不思議なもので、一緒の家に住んでいた時よりお互いがお互いに優しいの。外食も前はほとんど行かなかったけれど、今は外でご飯を食べたり、手を繋いだりしているよ。それに関しては良かったし、妻が今までやってきてくれたことに対して感謝しています。 ただ血圧が高い夜なんかはちょっと不安になるよね。そんな日はセコムのブザーを胸にかけて寝る。 徒歩15分のところに住んでいるマネージャーに電話しようかなと思ったりもするんだけど、鍵を渡していないから意識を失ったら家に入ってきてもらえない。緊急事態に助けてもらうためにも、そろそろ鍵を渡したほうがいいかなぁと考えているよ。妻の住んでいるところは車で1時間だから、助けを呼んでも時間がかかりすぎる。
◆「はいはいその通りだねって言っておけばいいのよ」 頼りの妻は、高齢の母親を自宅で1人見ていて大変なんだ。同居していた時のお義母さん、普段はボケてるんだけど、他人が来ると急にそれまでとうってかわってシャッキリする。「え?今までのは演技だったの?」って疑いたくもなった。(笑)彼女は音大の声楽科を出たもんだから玄人裸足の歌い手なの。耳がいいせいで、僕がテレビで歌番組を見ていると「この人の音程は狂っているから気持ちが悪い、チャンネルを変えなさい!」って言ってくる。 『紅白歌合戦』なんか邪魔されて見れなかったね。(笑)そんな事情もあって、うちはリビングにテレビを2台備え付けてて、僕とお義母さん、それぞれ違うテレビ見ていた。なぜか同じチャンネルを見ていても地デジとケーブルでは時差があるから、これが煩わしいこと煩わしいこと。僕はリビングでヘッドホンする生活を送っていました。 それでもたまたま1台のテレビを見ていて海外の戦況が流れてきたりすると「私が群馬に疎開してた時は」っていう長い話が始まっちゃう。「その話、聞きましたよ」って言うんだけど「本当の話なんだからしょうがないでしょ」って言って止まらなくなる。妻は「もうやめてよ」って無遠慮に言えるんだけど、僕が同じように言うと、妻は「そんな厳しいこと言ったらダメなのよ、『はいはいそうだね、その通りだね』って言ってあげないと」って言う。その割に、僕が見てても可哀想だろと思うほどピシャリと言う時もあるから親子喧嘩になるんだよ。どこの家もこういうことは同じだね。(笑) 義母は90歳という年齢のせいなのか、外国籍の人に対する偏見があるんだよね。紅白に海外からの出演者はいらないらしい。(笑)それに対して僕の亡くなった親父は明治生まれだったんだけど「差別は絶対ダメだ」と姉と僕に言い聞かせていた。子どもの頃、住んでいた社宅の近くに廃品回収をしている他国籍の人がたくさん住んでいる地域があって、よくそこに遊びに行っていたの。そうしたら社宅の奥さんがうちの母親に「智昭ちゃん、気をつけたほうがいいわよ」って忠言してきた。それを聞いた親父は「智昭、友だちがいるならどんどん遊びに行け、どんどん家に呼べ」って言ったんだ。そんな親父に育てられたから、今でも差別は絶対ダメだっていうのが染み付いている。番組やっている時もそのことにはいつも配慮していたよ。 今のテレビに何を思うかというと、裏金問題とかプーチンの戦争とか松本くんのことも、司会者はダメなものはダメって意見表明したほうがいいってことかな。コメンテーターにばかり意見を言わせて自分は立場を明解にしない人が多すぎるよね。本にも書いたけど、当たり障りのないこと言うのって言ってないことと同じだと思うんだ。誰にだって自分の意見はあるはずなんだから堂々と言えばいい。 話題のドラマ『不適切にもほどがある!』はもちろん見ています。ロバート秋山くんがやっていた不適切なお色気番組は、山城新伍さんの『独占!男の時間』っていう番組がモデルの1つだと思うんだけど、それに僕も出ていた。あの頃は確かにあれくらいめちゃくちゃだったよ。僕もパンツしかはいていない女性を膝の上に乗せて実況したりしてたから。ゴルフ帰りはビール飲んで車で帰宅するのが当たり前だったし、電車や飛行機、映画館の中でタバコを吸っていた。いい時代だったとは言わないけど、面白かったかな。 その頃からテレビの世界でやってきた僕は、忖度することって現役時代もあまりなかった。今回の本には、さらに好き勝手なことを書いています。なんせ古市がとにかく遠慮なく切り込んで来るんだよ。(笑)古市は若いのに炎上するようなこと平気で言ったりするところが嫌いじゃない。最近はご飯に行くと奢ってくれたりして、ああ見えて優しいんだよ。2人でベラベラ話しているところを編集者さんが聞いていて、面白いから本にしようという話になった。 古市に聞かれたことは病気のことも、しみったれた話だろうが、なんだろうが全部話したね。がんのことは長く生きてたら誰でも付き合うことになる病気だから、本当に僕はあまり恐れてはいない。がんはゴールが見えるから、色々準備ができていいと思う。 (構成=岡宗真由子、撮影=本社 奥西義和)
小倉智昭