【コラム】トランプ前大統領を支持するキリスト教「福音派」(後編)…「性的倒錯がアメリカを覆っている」
■キリスト教価値観に反すように見えるトランプ氏をナゼ福音派は支持?
繰り返しとなるが、過去のセクハラ報道や、刑事事件の有罪評決など、キリスト教の価値観とはほど遠く、信心深いとはいえないトランプ氏をなぜ福音派は支持するのか? トランプ氏を支持するロック牧師に改めて聞いてみた。 ――グレグ・ロック牧師「トランプ師を支持する最大の理由は、私が言うべきことを言わせてくれる人だからです。彼は歴史上最もアメリカに親しみ、言論の自由に親しんでいる大統領(候補)です」「誰だって失敗する。私は彼を見て、不倫したとか離婚したとか言うつもりはない。私は牧師を選ぼうとしているのではない。大統領を選ぼうとしているのです」 ロック牧師はこう述べた上で、「メディアは嘘をつくので、トランプ氏が過去に何をやったかなんてどうでも良い」と付け加えた。 またワシントンの政治集会で出会った福音派の女性は、「聖書に出てくるダビデも姦淫の罪を犯しました。神様は不完全な人を用いられるのです。しかし、私たちには罪を許す神様がいます。トランプ氏は自分の罪を告白して、神様に導かれているのです。だから私たちは許しているので彼に投票できます」との答えが返ってきた。 確かに聖書に出てくる登場人物は、イエス・キリストのような高潔な人だけではない。ダビデもソロモンも人間くさい一面を持っている。それにトランプ氏を重ね合わせていることがわかって妙に腑に落ちた反面、複雑な気持ちとなった。
■宗教と愛国心が一体となったナショナリズムが行き着く先は?
しかし、福音派の人全てが狂信的にトランプ氏を支持しているわけではない。福音派の中でもトランプ氏のやり方に懐疑的な穏健派の牧師やクリスチャンもいて、教会分裂の火種になっている。さらにトランプ氏"公認"の聖書は、票を集めるためだけの政治的混乱を招くものなので購入するなと呼びかける牧師もいる。福音派の中でも葛藤が続いているのだ。 今回の取材を通じ、銃撃事件後ますますトランプ氏の「神格化」が進んでいるのを目の当たりにした。11月の大統領選に向け、福音派の信仰心が愛国心と一体となるナショナリズムがより深化することへの懸念を感じた。結果、国内の分断がますます進み、さらにその先、国際社会へ与える影響など大統領選に向けた展望は見通せない。 ■筆者プロフィール
末岡寛雄NNNニューヨーク支局長。「news every.」「news zero」のデスクやサイバー取材などを担当し、災害報道にも携わる。気象予報士。趣味はピアノ演奏と音楽鑑賞。ジャズ・ロック・ソウル・ゴスペルが好き。