【大人の熱海旅行】美酒と巡り合うオーセンティックな隠れ家バーへ
豊かな風土に彩られた日本には、独自の「地方カルチャー」が存在する。そんな“ローカルトレジャー”を、クリエイティブ・ディレクターの樺澤貴子が探す本連載。今回旅したのは相模湾を望む起伏に富んだ独特の景勝に惹かれ、多くの文人墨客が別荘を構えた熱海。大人の夜は、本格的なバーでカクテルを堪能。 【大人の熱海旅行】イタリアン、鮮魚店。山海の美食に酔う(写真)
《BAR》「Bar Negroni(バー ネグローニ)」 美酒と巡り合うオーセンティックな隠れ家
旅先の夜は長い。夕食前のエアスポットに、路地裏のバーを探し歩く。熱海銀座商店街の程近く、何気ない脇道の何気ない建物の1階に、小さな看板を掲げた「Bar Negroni」を見つけた。200種類を下らないシングルモルトや繊細なグラスが整然と並ぶカウンターの中から、白いバーコートを羽織った店主の吉田 務さんが迎えてくれた。ここが温泉地であることを忘れるような、オーセンティックな雰囲気が漂う。
リゾートホテルのレストランやバーで経験を積んだ吉田さんが、この地で自らの店を開業したのは2008年のこと。熱海という土地柄、日頃はバーに馴染みのない女性から熟練のバーホッパーまで幅広い客層が集う。 「どんな方でも垣根なく楽しめる店にしたいという思いから、世界で最もスタンダードなカクテルのひとつ“ネグローニ”を店名に据えた」と吉田さん。ならばと、件の看板カクテルをオーダー。ジンとカンパリ、スイートベルモットを混ぜ合わせる“ネグローニ”だが、吉田さんはカンパリの中にアールグレーの茶葉を漬け込み、ひと匙の香り高い魔法をかけている。スローイングを繰り返すことで茶葉の香りがゆっくりと開き、誰もが知る“ネグローニ”が仄かに艶を増す。
いっぽう、男性にレコメンドするなら、静岡の蒸留所で仕込んだシングルモルト「ポットスティル K」と葉巻のマリアージュはいかがだろう。熟成感はないが、その分サラリとしてフレッシュ。バーボンのような感覚で食前酒として楽しめるという。店主の談に耳を傾け、グラスが空く頃には心地よい浮遊感に包まれる。仕事の気配を纏って訪れる都心のバーとは異なり、“素の自分”で尋ねる旅先のバーは、1杯で大人を酔わせるのに十分なようだ。
Bar Negroni(バー ネグローニ) 住所:静岡県熱海市中央町16-8石黒ハイツ1階 電話:0557-81-1778 BY TAKAKO KABASAWA 樺澤貴子(かばさわ・たかこ) クリエイティブディレクター。女性誌や書籍の執筆・編集を中心に、企業のコンセプトワークや、日本の手仕事を礎とした商品企画なども手掛ける。5年前にミラノの朝市で見つけた白シャツを今も愛用(写真)。旅先で美しいデザインや、美味しいモノを発見することに情熱を注ぐ。