高円寺の人気銭湯が「東急プラザハラカド」に進出までの紆余曲折 若手経営者が新たな取り組みに挑戦
なお、ここまで至るには、小杉湯だけではなく、小杉湯の常連、ファンがいっしょになって取り組んできたそうだ。小杉湯は代表取締役の平松氏、副社長の関根氏、正社員3名の体制。多くの人や企業との連携が欠かせない。 例えば小杉湯に隣接するカフェ・コワーキング施設「小杉湯となり」の企画・運営を行っている「銭湯ぐらし」は、小杉湯の常連など40名で構成される企業。 同社は「銭湯から始まる町づくり」を掲げ、近隣の空き家を「銭湯つきアパート」として再生させたり、マルシェや商店街の店とコラボイベントを開催するなどの事業を行っている。結果として、地元が活性化され、小杉湯のお客も増えるというわけだ。
「私たちが仕掛けるというよりは、不思議なことにお客様がこちらに近づいてくる。いっしょにやりたいと言ってくれ、イベントなど新しい取り組みを始めることが多い。常連やファンの皆様がやりたいことを実現してきた結果、小杉湯の今がある」(関根氏) そういう関根氏自身、銭湯ファンの一人。しかし2年前まではまったく畑の異なる金融関係のスタートアップを運営していた立場だった。会社や株主の事情から、自分が提供するサービスや商品に真正面から向き合うことが難しく、事業や会社、社会について考えるようになった。「価値のあるものを経営したい」と思ったのが、銭湯の運営に関わるようになった動機だそうだ。
■新しい銭湯文化への挑戦 「直感で『銭湯だ』と思った。小さな頃、清掃の仕事をしていた父が、帰宅すると銭湯に連れて行ってくれた。自分にとってもいい思い出のある場。そんな町の銭湯という日本の伝統的な文化に企業の経済的価値がつく、そんな世の中にしたい」(関根氏) 今回、高円寺を離れての、原宿の商業施設におけるプロジェクトも関根氏が中心になって動いている。 きっかけとなったのは東急不動産側からのアプローチだったそうだ。
「東急不動産でも、コロナ禍で価値観が変わり、これまでのやり方ではうまくいかなくなっているという課題を抱えていた。存続の危機に直面している銭湯といっしょに、この先も長く続いていく街づくりに取り組みたいというお話をいただき、挑戦することになった」(関根氏) こだわったのは、継続性・持続性だった。地下1階の約半分にあたる、151坪のスペースを小杉湯がプロデュース。単なるモノの売り場、宣伝のスペースではなく、客といっしょに新たな銭湯文化をつくりあげられる場所でなければならない。