高円寺の人気銭湯が「東急プラザハラカド」に進出までの紆余曲折 若手経営者が新たな取り組みに挑戦
もっとも、それでも東京都の平均数からすると多い。高円寺、そして隣駅の阿佐ヶ谷の周辺には銭湯やサウナ施設が数カ所ある。銭湯の風俗がまだなんとか残っている土地柄なのだろう。 一般公衆浴場、いわゆる銭湯はかつて衛生的な生活の維持に欠かせない施設だった。そのため、料金は戦後以来「物価統制」を受けており、都道府県により上限が決められている。東京都は520円だ。毎日水、燃料を大量に要する銭湯において、平均的な144名の売り上げでは経営が厳しいだろうことが想像できる。
自宅の風呂が普及した現代において、生活に必須とは言えなくなった銭湯は、存続をかけて需要の喚起を模索しなければならなくなった。小杉湯では先代から、地元のヨガサークルなど、地域の集まりに営業時間外の場所を提供し始めている。 ■イベント要素を盛り込んだ 3代目から始めたのが、日替わり湯、物販など。「生活の一部」であった銭湯に、イベントの要素を盛り込んだのだ。 例えばユニークなのが、形が悪い等で商品にならない生産物を湯に入れる「もったいない風呂」。「みかん風呂」「酒かす風呂」などバラエティに富み、好評だったが、一方でコロナ禍、衛生面を心配する声が上がり、残念ながら現在は中断している。
物販に関しては、湯上がりの飲み物としてクラフトコーラやクラフトビール、クラフトジンなど、ちょっとこだわった商品も品揃えした。1本500円近くと、銭湯の料金とほぼ同じ価格の飲み物も売れる。 また、より「おもてなしの心」を感じさせるのが、アメニティの充実だ。シャンプー類だけでなく洗顔、クレンジング、化粧水、乳液を揃えた。これら、風呂エンタメ施設とも言えるスーパー銭湯なら完備されているが、銭湯では普通、リンスインシャンプーとボディソープがあるぐらい。
フェイスタオル、バスタオルもそれぞれ50円、150円で貸し出している。現在は、今治と並ぶタオル産地、泉州のタオルを使用しているそう。小杉湯のスタッフが現地に足を運び、作り手と直に話してコラボ契約を結んできた。 こうした地道な取り組みにより、客が徐々に増えてきた。 ■常連たちと一緒に取り組む町づくり 「ここ数年で、月に1回来てくれた人が週1という具合に頻度が上がり、さらに地元以外からもお客様が来てくれるようになった」(小杉湯副社長の関根江里子氏)