2014年の日本政治を振り返る ─総選挙を中心に─ 内山融・東京大学大学院教授
このような事態となったのは、主に、政権による争点設定の巧妙さと、野党陣営の合意形成不足のためである。特に、野党陣営内部で(政党間だけでなく同じ党の中でも)安全保障政策や原発に関する意見のばらつきが大きく、明確で現実的な代案についての合意を形成するのが困難だったことが大きい。今回、多くの選挙区において野党間の候補者調整が行われたのは注目すべきだが、政策調整までは手が回らなかったのである。 加えて、選挙制度の問題も指摘しておきたい。よく知られているように小選挙区制は二大政党制を生み出しやすいが、ある選挙区で、有効な(つまり泡沫でない)候補者が二大政党のそれしか存在しなかったら、有権者は、それらのうちどちらかを選ばざるを得ない。そして、ある有権者がA党を選んだら、A党の提示する政策のうち支持できないものがあっても(たとえばA党の経済政策は支持するが安全保障政策は支持できないといった場合でも)、それを受け入れざるを得ない。つまり、小選挙区制では各政党が様々な政策を「セット販売」することになる。気に入らない政策がセットに含まれていても、有権者はそれを購入せざるを得ないのである。 その点、比例代表制はそうした問題が少ない。多党制を生み出しやすい比例代表制では、単一の争点に絞った政党(たとえば環境政党など)が存在できる余地がある。その場合、有権者は、自分の重視する争点に基づいて政党を選ぶことができる。いわば、政策の「ばら売り」が可能なのである。現在、衆議院議長のもとに置かれた「衆議院選挙制度に関する調査会」で選挙制度に関する検討が進められているが、多様な民意の表出を尊重する立場からは、比例代表制の一層の活用も考慮に値するように思われる。 ------------------- 内山 融(うちやま ゆう) 東京大学大学院総合文化研究科教授。専門は日本政治・比較政治。著書に、『小泉政権』(中公新書)、『現代日本の国家と市場』(東京大学出版会)など。