<三南プライド・’21センバツ>後輩に託した思い/上 八木下克博コーチ(56) 選手と監督の橋渡し /静岡
◇リハビリ専門医 体のケア、技術指導 「今のは、どう」「膝をもう少し閉じてみたら」。ウオーミングアップが始まると、まず一人一人に声をかけて回る。三島南の練習時に広がる光景だ。「選手からすれば、監督という立場とまた違って、話しかけやすいのかもしれない」と笑う。中伊豆温泉病院(伊豆市)で働くリハビリテーションの専門医。多忙な業務の傍ら、チームのコーチとして選手たちの体のケア、技術の指導にあたる。 自身もかつて「甲子園」に憧れた高校球児の一人。だが、グラウンドの土を踏むことはかなわなかった。三島南を卒業後、理学療法士を育成する高知県の専門学校で国家資格を取得し、地元の中伊豆温泉病院に就職。2003年にスタートした大会期間中に選手の熱中症対策やけがの応急措置などにあたる「静岡県高校野球メディカルサポート」の立ち上げにも携わった。 コーチへの就任は06年。稲木恵介監督(41)が赴任する7年前だった。野球部OBの諏訪部孝志さん(62)=現OB会長=から「けが人が多いから診てやってくれ」と依頼されたことがきっかけ。すぐに「(当時の)監督に相談できず、痛みやけがをこらえている選手が多い」と感じたという。「両者の橋渡しをしよう」と考え、選手と何でも話しやすい関係を築くことを心がけようと決めた。 職業柄、選手の細かい動作を無意識に目で追うため、普段はしないような仕草があると、「かばっているな」と分かるという。積極的に声をかけて、小まめに状態を確認。病院での診断の結果をLINE(ライン)で共有するなどし、綿密なコミュニケーションを欠かさない。自然で無理のない動き、けがをしにくい動作を選手と一緒に考えることで、技術面の向上にもつなげる。 公立校の部活動は専門のコーチを招くことが難しく、指導者不足に直面する。リハビリ専門医のコーチはまれな存在だ。「任されることがうれしい半面、大きな責任もある」と使命感をにじませる。昨年の秋からのチームの成長は最も近くで見てきた。「普段通りの力を発揮できるように手伝いをしたい。それだけです」。後輩たちと一緒に、念願の甲子園の土を踏むことを心待ちにする。 ◇ 第93回選抜高校野球大会(毎日新聞社、日本高野連主催)に21世紀枠代表として出場する三島南。公立校で練習の環境に制約がある中、甲子園への切符をつかんだ裏側に、2人の野球部OBの献身的なサポートがある。それぞれの思いを紹介する。【深野麟之介】