「発行されなかった卒業証書展」命絶たれたウクライナ学生36人の記録、主催者は「生きた証しを伝えるため」戦う 思いも寄らぬ結末、犠牲者の中には主催者の知人も…
ロシアによるウクライナ侵攻が始まり、二度目の夏が来た。いま世界中で、ある企画展が随時開かれている。その名も「発行されなかった卒業証書展」。侵攻により、学業や人生の道半ばで生命を絶たれた17~26歳の学生36人の人となり、将来の夢、生活、趣味、そして最期の様子を、生前の写真とともに「卒業証書」の形で紹介している。36人の生きた証しを発信したのは、世界中に散らばったウクライナの学生有志で、日本でも開催された。日本開催で中心的な役割を担ったウクライナ人留学生の夫婦に、経緯と現在の心境を聞いた。(共同通信=力丸将之) ▽36人の笑顔、その生と死 日本での卒業証書展はウクライナ侵攻が始まって1年の今年2月に始まり、東京、神戸、大阪の順で開催された。現在までに日本を含む26カ国以上の45を超える世界の大学などで開かれた。公式ホームページ上でも「卒業証書」を公開している。 その中の一人、19歳で亡くなったイヴァンナ・オボジンスカさんは次のように紹介されている。「イヴァンナは双子の母親でした。彼女は子育てのかたわら、教育を受けていました。卒業してから、景観デザイナーとして働こうと希望を抱いていました」。彼女は絵を描くのが好きで、パンを焼くことが得意だった。だが2022年3月8日、自宅が爆撃され、二人の子とともに命を落とした。
36人中17人は開戦後に入隊し、戦死した。モノクロ写真の中の36人はみな、笑顔で前を向き、その年代の若者らしい顔つきをしている。 日本では太平洋戦争中の1943年、戦局の悪化により、それまで徴兵が免除されていた大学生の出陣が決まった。「学徒出陣」により、未来ある多くの若者が戦地に散った。今年は学徒出陣から80年になる。日本とウクライナとでは状況が異なるかもしれないが、いつの時代も前途ある若者が戦争の犠牲になる現実を突きつけられる。 5~6月に卒業証書展が開催された神戸学院大有瀬キャンパス(神戸市西区)では、特別講演があり、主催者のウクライナ人学生2人が日本の学生に訴えた。「犠牲になった学生のことを伝え続ける。これが私たちの戦いです」。武器を手に取り、最前線で戦うことだけが戦争ではない。祖国から約9千キロ離れた極東の地でも、形を変えた戦いはあるのだ。 8月の大阪府立中央図書館(大阪府東大阪市)での展示を訪れた東大阪市の高校3年藤井遥加さん(17)。大学で国際関係論を学ぶために受験勉強していた図書館で「卒業証書」を見た。「将来の夢や未来、才能があったはずなのに、全て侵略で奪われたのは惜しい。命は無駄にできない」と悼んだ。