センバツ高校野球 久我山、初の決勝逃す 強豪相手に全力プレー /東京
快進撃は準決勝で幕を閉じた。第94回選抜高校野球大会第10日の30日、国学院久我山(杉並区)は大阪桐蔭に4―13で敗れ、初の決勝進出はならなかった。久我山は渡辺、松本慎、成田と得意の継投策で臨んだが相手の重量打線を止められず、六回に3番木津が2点適時打を放つなどして粘るも及ばなかった。春の初勝利に始まり、春夏通じて初のベスト4に駆け上がった選手たちの最後まで諦めない姿に、スタンドから大きな拍手が送られた。【小林遥、加藤昌平、中田博維】 超高校級の選手たちを擁する強豪を相手に、選手たちは物おじすることなく積極的にプレーした。 決勝進出をかけた大一番、尾崎監督は先発に準々決勝の星稜戦で3回を無失点に抑えた左腕・渡辺を起用した。母の育代さん(53)が「一球一球、気持ちを込めて全力投球してほしい」と見守る中で、渡辺は球を低めに集め、制球力の高さを発揮した。三回途中に松本慎、八回にエース成田とつないだ。 攻撃では、相手投手の好投に塁を踏めない苦しい時間が続いた。四回、3番木津が遊撃手を襲う強烈な打球を放ち、一塁にヘッドスライディングをしてチーム初安打。重い空気をふき飛ばした。母奈々さん(48)は「しっかり役割を果たし、相手に食らいついている」とたたえた。 応援団長を務める平川優希選手(3年)が「大きな声援で後押ししたい」とエールを送る。応えるように六回、久我山の反撃が始まった。先頭打者の9番萩野が中前打で出塁。1番斎藤も続き、木津の適時打で2人が生還した。強豪相手に待望の得点をもぎ取った。 諦めない久我山は点差を広げられても奮い立つ。九回、粘りを見せる。2死一、二塁の場面で、斎藤が「ここでやってやろう」という強い気持ちで中前適時打を放った。最後まで諦めないチームを象徴する一打に、スタンドの盛り上がりは最高潮に。父一成さん(58)は「最後の意地で1本を出してくれた」と笑顔を見せた。 現在の3年生は1年時に都内の大会で勝てず、「チーム史上最弱」と呼ばれてきた。その選手たちが「全員野球」で勝ち取った、同校初の甲子園ベスト4。試合後、一礼する選手たちにスタンドから長く続く温かい拍手が送られた。 野球部顧問として尾崎監督と共に9年間チームを見守った佐藤誠博(まさひろ)教頭(64)は「強豪相手に彼らの努力と意地を見せてくれた」と、最後まで全力を尽くした選手たちをねぎらった。 ◇2番手で踏ん張る ○…三回に2点の追加点をとられたピンチに、左腕の松本慎が2番手で登板。犠打や適時打で3点を奪われたが、その後は少ない失点で七回まで耐え、3番手の成田へ託した。尾崎監督は「素晴らしいピッチング」と評価。甲子園に行く前、「思いっきりやってくる」との決意を聞いた母いづみさん(51)は、「悔いのないようにやってきてね」と激励した。松本慎の踏ん張りに「よくできている」とほほえんだ。 ◇OBも後輩見守る ○…学校史上初の甲子園4強入りを果たした選手たちを、野球部のOBたちもスタンドから応援した=写真。2019年にスタメンで夏の甲子園を経験した早稲田大3年、伊藤佑馬さん(20)は高校卒業後、野球を引退したが、今でも甲子園の大歓声を覚えている。伊藤さんの代は2回戦で敗れ、「甲子園で勝つことの難しさを知った」という。「ここまで勝ち上がってきたことは、すごい」と後輩を誇らしげに見守った。 ……………………………………………………………………………………………………… ■ズーム ◇好機に反撃の一打 国学院久我山・木津寿哉右翼手(2年) 好投手を打ちあぐね、無得点で迎えた六回。仲間がつないで作った1死二、三塁の好機に打席が回ってきた。「絶対打つ。チーム最初の点を取る」。強い思いで打席に立ち、初球を振り抜いた。ボールは一、二塁間を抜けて反撃ののろしとなる2点適時打。ベンチに向け左手を挙げ、控えめに喜びを表現した。 中学3年の時、新型コロナウイルスの影響で全国大会が中止に。心も体も活躍の場を失った。勉強と野球の両立を目指し久我山を進学先に選び、野球に打ち込んだ。父博昭さん(49)は「(中学で大会が中止になり)その分、センバツに熱い思いを持っている」と感じている。 状況に応じた的確なバッティングが持ち味で、俊足で積極的に盗塁も狙う。冬の間は一日200回の素振りでスイングスピードを上げることを意識した。この日は四回に一塁にヘッドスライディングで飛び込む執念の内野安打を見せるなど、3安打の活躍で攻撃を引っ張った。 優勝候補に力負けし、「レベルの高い投手になると打てないので、そこは課題にしたい」と次を見据えた。今回味わった悔しさを晴らしたい。そのために、夏に向けて更なる努力を積み重ねていく。【小林遥】 〔多摩版〕