『キングダム2』清野菜名は“宿命を背負う女戦士”が最も似合う俳優だ 武道家が剣術を解説
7月5日の『金曜ロードショー』(日本テレビ系)において、『キングダム2 遥かなる大地へ』(2022年)が放送される。1作目で死線をくぐり抜けた信(山﨑賢人)の成長、カリスマ性が鎧を着て歩いているような王騎将軍(大沢たかお)や麃公将軍(豊川悦司)のただ事ではないカッコよさ、ただのパワハラ上司ではなかった千人将・縛虎申(渋川清彦)の『魁!!男塾』的な男気など、見どころが渋滞している。思いのままにそれらをすべて解説すると、膨大な長さの記事となる。いっそ書籍にしたい。 【写真】魏との戦いに歩兵として参戦した羌瘣(清野菜名) 涙を飲んで、本記事のテーマを1人のキャラクターの紹介に絞る。今から語るのは、女戦士・羌瘣(清野菜名)についてだ。 魏との戦いに歩兵として参戦した信は、「伍」という5人組のチームを組まされる。常に5人一緒に戦うことで、死亡率は下がるが個人の武功も立てにくい。「天下の大将軍」になるために参戦している信は、当然単独行動に出る。そして、この伍からもう1人、スタンドプレーに走る歩兵がいた。それが羌瘣である。背が低く、喋らず、顔も隠していたために少年だと思われていた羌瘣だが、実は女性であった。だが、恐ろしいほどの手練れだ。 羌瘣の剣術は、回転しながら横から斬りつける動きが多い。優雅で美しい。人殺しの技というよりも、バレエや舞踏のようでもある。しかしながらこの剣筋は、単に映像映えだけを目的としたものではない。恐ろしく強いとは言え、やはり女性である。小柄であり、フィジカルに恵まれているようには思えない。定石通り剣を上段から振り下ろし、骨ごと人間を断つには、相当な膂力が必要だ。また上段から振り下ろして相手の剣で防がれた場合、そのまま鍔迫り合いとなる。男性相手のフィジカル勝負は、極力避けねばならない。 その点、回転しながらの横殴りであれば、比較的腕力を使わずに遠心力で剣を振ることができる。また、剣自体の重さで、回転の勢いも増すだろう。素足よりも靴を履いている方が、跳び後ろ回し蹴りの勢いが増すのと同じ原理である(ニッチな例え)。 当初、心を閉ざしていた羌瘣だが、信との共闘の末、ほんの少しだけ心を開く。そして戯れに信の腹を殴るのだが、その何気ない腹パンに、羌瘣、いや清野菜名自身のボクシングスキルが垣間見える。いい具合に肩の力が抜け、肩甲骨の動きを活かした綺麗なボディブローである。突き刺すタイプではなく、弾くような内臓を揺らす一撃だ。グローブをはめていれば、効率良くその重みが伝わる打ち方である。ガチで打っていたら、恐らく信は悶絶しているはずだ。 今作での動きを見ればわかるように、清野菜名は本来武闘派俳優である。近年は月島雫の10年後を演じたりもしているが(『耳をすませば』)、元々は「アクションで輝く女優」として、世に出てきたのだ。正直に申し上げると、初期の作品のすべてが彼女の魅力を活かし切れていたとは言えない。玉石混交のカオスである。だが、その中で1作、ピカピカの「玉」がある。押井守監督作『東京無国籍少女』(2015年)がそれだ。 彼女が演じるのは、記憶をなくした元・女兵士。今は高校美術部に在籍しているのだが、いじめに遭っている。いじめっ子たちにトイレに連れ込まれた時、かたわらのデッキブラシを手に取る。先端のブラシ部分を踏み折り、低い棒術の構えでいじめっ子に棒を突きつける。 デッキブラシのブラシ部分自体は、打ちつければ武器にはなるだろう。だが、重心が先端に偏っているため、棒術を繰り出すには不都合だ。一瞬の判断で、その場にある物を使い勝手の良い武器に作り変える。記憶をなくしてなお、優秀な兵士であったことが伺えるシーンだ。 このシーンを観て、筆者は1本の古い名作を思い出した。『仁義なき戦い 広島死闘篇』(1973年)である。作中、千葉真一が、食堂で乱闘になった時にかたわらの竹竿を手に取る。その竹竿で戦うのかと思ったら、出刃包丁で斜めに叩き割り、即席の竹槍を作り出す。無銭飲食した北大路欣也の喉元に突きつけ、制圧する(ちなみに千葉真一の方が悪役)。このシーンが震えるほどカッコよく、筆者は何度マネしたかわからない。 この時の千葉真一と、デッキブラシ棒術の清野菜名が、オーバーラップして見えたのだ。一見可憐な彼女だが、千葉真一亡き後の日本アクションシーンを支える1人となってほしい。 再び『東京無国籍少女』の話に戻る。この作品の終盤、校舎で繰り広げられるロシア兵との白兵戦が、驚異的にリアルだ。洗練された銃剣の扱い、胴タックルから小内刈りによるテイクダウン、命中率の高い接近戦でのコンパクトな後ろ蹴り、戦闘不能化を狙ったナイフによる大腿動脈への斬撃など。映像映えのためだけの無駄に派手な攻撃など一瞬たりともない、嫌になるほどリアルな軍隊格闘術だ。それでいて、ただの地味で殺伐とした絵面というわけではない。一切の無駄を排除した機能美に溢れている。 「戦うことを宿命づけられた悲しき女戦士」が最も似合う俳優・清野菜名演じる羌瘣の活躍は、来週7月12日に放送される『キングダム 運命の炎』(2023年)でも堪能することができる。同じく7月12日に公開される『キングダム 大将軍の帰還』においても、美しく華麗に暴れてくれるはずだ。
ハシマトシヒロ