「14歳の娘の胸に銃口をあて、引き金を引いた」米国が衝撃を受けた銃乱射事件、17人も殺害した男は死刑を免れた 遺族が語るアメリカの死刑制度(後編)
公判で最も辛かったのは、ジーナさんが殺害された具体的な状況を聞かなければいけなかったことだ。 「娘が何度も撃たれたことは知っていたが、銃口を娘の胸に当てて引き金を引いたのだと聞いて…。本当に残酷だ」 公判では、クルーズ受刑者の人生についても知ることになり、笑顔の写真を見なければならないことも辛かった。 「もう二度と彼に会いたくないし、彼のことについて聞きたくない。矯正システムのブラックホールに消えてほしい」。モンタルトさんは、「彼」や「犯人」などと呼び、名前で呼ぶのを避ける。私が「ニコラス」と言うことすら嫌がった。 ▽受刑者が望んだのはカルトヒーローだった 公判で弁護側は、クルーズ受刑者を妊娠中の母親が飲酒していたため、受刑者はもともとダメージを受けており、精神障害などで苦しんでいたと主張した。検察側は死刑を求めたが、2021年10月13日、フロリダ州地方裁判所の陪審は仮釈放のない終身刑の評決を下した。
フロリダ州法では死刑を言い渡すためには陪審員全員の一致が必要だが、この時は12人の陪審員のうち3人が反対し、意見が一致しなかった。モンタルトさんは「非常に落胆した」。 モンタルトさんによると、クルーズ受刑者にはカルト的なヒーローになる願望がある。1999年に起きたコロラド州コロンバイン高校の生徒2人が銃を乱射し、13人が死亡した事件では、犯人が今でもインターネット上でカルト的な支持を集めている。クルーズ受刑者も、いかに有名になりたいか、いかに多くの人を殺したいかと語っている動画があるという。「すべてのメディアに、彼が望むような名声を与えないように呼び掛けたい」 ▽「空っぽの寝室を通るたびに娘を思い出す」 事件はモンタルトさんの生活を大きく変えた。モンタルトさんは、米大手航空会社のパイロットで、世界中を飛び回り、日本にもよく行ったという。だが事件後は以前のように働くことが困難になり、勤務時間を減らし、今は国内線の機長を務める。