【アジア杯分析第4回】「三笘薫ガンバレ」状態。なぜサッカー日本代表は個を活かせないのか? スペイン人指導者が指摘「反省もなく繰り返すと…」
日本代表は3日、AFCアジアカップカタール2023準々決勝でイラン代表に敗れ、ベスト8という結果に終わった。三笘薫、冨安健洋、久保建英など、アジア最高クラスの質を持つ選手が揃いながらも、なぜ日本代表はアジアで苦しんだのか。スペイン出身のアレックス・ラレアが日本代表の戦いを分析する。(取材・文:川原宏樹)
●サッカー日本代表に「守備は堅い」というイメージはない 優勝を目指したAFCアジアカップだったが、サッカー日本代表はイラン代表に敗れて4強入りすらできなかった。大会前の親善試合では9連勝中で優勝候補筆頭に挙げられた日本代表だったが、それまでの好調ぶりは影を潜めたまま大会を去ることになった。 その原因を探るため、UEFA PROライセンスを持つスペイン人指導者アレックス・ラレアが今大会における日本代表を総括。「ある程度のガイドラインを策定する必要がある」と提言する。 前回は主にイラン代表戦を振り返ってその敗因を解説したアレックスは、日本代表の大会を総括する前にサッカーの真理について語ったあと、日本代表に起きていた現象を推察した。 「サッカーでは能力的に劣っているチームでも90分間のなかでチャンスが訪れることはあり、そのチャンスで得点できる可能性を秘めています。そのような真理があるなか、グループステージでの日本代表はそういった対戦相手が秘める可能性でことごとくゴールを許してしまいました。それは決勝トーナメントに入ってからも同様で、バーレーン戦でも失点してしまいました」 対戦相手の数少ない決定機でゴールを許した日本代表。そのような戦いぶりを見た対戦相手にとって、日本代表にはポジティブな印象が生まれたという。 「そういった状態に直面した相手は、おそらく日本代表の守備は堅いというイメージはなくなっていったのではないでしょうか。だからこそ、攻撃時にはイニシアチブを握ったような感覚になり、大胆なプレーもできたのだと思います」 各試合で少ない決定機をものにされ続けた日本代表は、その影響でネガティブなプレーが増えた。それは対戦相手とは対照的となり、さらにネガティブな方向へ陥ってしまったのではないと考察している。 ●守田英正の「もっと指示がほしい」発言から感じることは… 「特定の誰かに責任があるとまでは言いませんが、日本代表はグループステージのときから守備の不安定さを露呈していました。そういったなかで自分たちのゴール前付近でのミスが発生していたので、さらに後ろ向きな気持ちになっていったのではないでしょうか。一方、相手には『いける!』といったようなポジティブな感覚を持たれてしまったように思います。結局、そういった状態が得失点に影響し、勝敗にまで影響を与えたように見えました」 大会を通してメンタルがネガティブな方向へ向いてしまったことを挙げ、最後までそのベクトルを反転させられなかったことを指摘した。 今大会での精神状態を分析してその影響について考察したアレックスは、イラン戦後の守田英正が語ったコメントが気にかかったという。森保一監督はボトムアップをベースに選手からの意見を尊重するチームづくりを進めているが、結果として「もっと指示がほしい」と守田からは求められてしまった。そういった状況を踏まえて、日本代表監督へ次のステップを提示する。 「守田がコメントしたように、今の日本代表にはプレーモデルのようなものが必要です。改めて森保監督自身が策定して、それに対してアプローチしていくというプロセスが重要になるでしょう」 「推測の域を出ませんが、これまではポジションがあってフォーメーションを示し、どうプレーするかは選手に任せていたところが大きいのでしょう。三笘薫や久保建英といった選手らが即興的に繰り出すプレーに期待して、その力に重きを置いて勝利を目指していたのだと思います。そして、大会前まではそれでうまくいっていました。しかし、今大会ではその方法では不安定なままということを露呈しました」 ●「繰り返すと発展はない」「次のステップとして日本代表監督がすべきことは…」 「即興性に頼るということは、うまくいくときはうまくいくし、うまくいかないときは負けてしまうのは当然です。それは彼らのコンディションや感覚、パフォーマンスなどに大きく左右されるからです。そういった不安定な要素に左右されず、チームとして安定的なパフォーマンスができるように構築していくのが監督やコーチの仕事だと思います。程度の問題はありますが現状を考慮すると自由に判断させるというより、もう少しプレーややり方を選手たちに共有すべきように感じます。選手たちにガイドラインのようなものを提供することが、次のステップとして日本代表監督がすべきことになります」 現状の日本代表にはプレーモデルやガイドラインといった指針を示す必要があると説いたアレックスは、今後の取り組み方を例示。「同じことを繰り返すと発展はない」と、警笛を鳴らしている。 「現在の日本代表には前線に質の高い選手をそろえています。それは攻撃的なサッカーを実現するための種がすでにあることを示しています。その実現のために、ディフェンスラインを高く設定して積極的にハイプレスをしかけて基本的に相手陣地でプレーできるようなプランを作るのが良策です」 「日本代表の面々は比較的に若く、走力もあります。ですのでハイプレスをしかけたとしても、相手のカウンターアタックに対応できるだけの力もあるでしょう。あとは、イラン戦のようにロングボールやクロスボールをフリーで蹴らせてしまうという状況が多々あったので、しっかりと相手に寄せるというアクションの実効性を高めるように働きかけます」 続けて、補強ポイントについても言及。新たな選手の台頭にも期待を寄せているようだ。 ●「三笘薫がんばれ」状態。なぜ能力の高い選手が活きないのか 「前回も指摘しましたが、右サイドバックが不足しています。右側で幅を取る役割の選手が必要です。個人的には橋岡大樹が気になっています。そのように幅を取る選手がいることを前提にして、どのようにボールを動かすかというビルドアップの部分をチームとして明確化しなければなりません。また、今大会を踏まえるとオフェンスラインを越えるように後方から追い越していく選手の必要性を感じました。このような層の厚い攻撃を展開できる選手として、田中碧のような選手が考えられます」 加えて、各選手が持つ特長を生かすためのデザインが必要と説く。それは選手個々に頼るのではなく、チームとして個の特長を引き出せるようにするためのガイドラインが必要と主張する。 「たとえば三笘がボールを持ったとき、チームは『三笘がんばれ』という三笘頼みの雰囲気になります。しかし、イラン戦では2~3人が彼に寄せていき、7人もの相手がスライドして彼のいるスペースを削りにきていました。このように対策を練ってくる相手に対してチームが『三笘がんばれ』状態になってしまうと、彼が持つ力を発揮するスペースはありません」 「せめてチームとして質的優位な状況をつくり出すことが大切で、少なくとも彼が1対1、最悪でも1対2の状況でボールを受けられるようにすべきなのです。能力のある質の高い選手が可能なかぎり広いスペースでボールを受けられるようにチームとしてデザインすることが必要で、選手の特長を生かすためのプレーを含めたガイドラインの策定が今の日本代表には求められています」 今後、森保監督が策定すべきプレーモデル、ガイドラインについて提案したアレックスは、最後に今後の日本代表で注目すべきポイントについて語った。 ●戒めと期待。「反省もなく繰り返すと…」「そこに価値がある」 「うまくいかなったこと、失敗したことに直面したときに、人はその答えや対策を導き出そうとします。このような反省もなく同じことを繰り返していると、決して発展は得られません。そういう意味では、今後の日本代表が課題解決に向けてどのように取り組むかに注目すべきだと思いますし、そこに価値があると感じています」 「森保監督がどのように準備して、どのようなプレーを求め、どのように示すのか。また、それに対して選手らがどのように実行するのか。こういったプロセスがあるのか見ていくことが必要でしょう。同じようなことを繰り返すと、同じような結果を繰り返す可能性が高まります。このままではワールドカップのような勝利もあれば、アジアカップのような敗退もあるといったように不安定なままで、進展しているのかしていないのかわからないという状態になってしまうでしょう」 このように戒めをもって提言したアレックスだが、今後の日本代表は「楽しみ」だという。 「ポジティブに考えれば、失敗を糧にするしかない状況です。ですから、森保監督をはじめとする日本代表が今後どうやって進展していくかに注目したいと思います」 3月にはFIFAワールドカップ26アジア2次予選が再開する。その後は9月から始まるアジア最終予選と、しばらくはアジア勢との戦いが続く。その戦いのなかでアジアカップで露呈した課題をどのように解決していくか見どころである。 (取材・文:川原宏樹)
フットボールチャンネル