アカデミー賞ノミネートのポール・ジアマッティが語る、盟友との19年ぶりのタッグと共演者への信頼
「アレクサンダー・ペイン監督との仕事をずっと待ち望んでいました。『サイドウェイ』に出演して以後、あんな機会はもう二度とないのかもと思っていた。大好きな友人と仕事ができるなんて、最高だとしか言いようがない」。第96回アカデミー賞で作品賞など5部門にノミネートされた『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』(公開中)で主演を務めたポール・ジアマッティは、盟友であるペイン監督との再タッグに喜びをあらわにする。 【写真を見る】三者三様の孤独を抱えた“置いてけぼり”たちが心を通わす…アレクサンダー・ペイン監督らしい人間ドラマ 日本でも好評を博した『サイドウェイ』(04)で作家志望の教師マイルスを演じたジアマッティは、その演技で大絶賛を獲得。インディペンデント・スピリット賞をはじめ数多くの映画賞で主演男優賞を受賞したものの、有力視されたアカデミー賞ではノミネートまで手が届かなかった。それから19年。様々な演技で味のある演技を見せるキャリア30年以上のベテランとなった彼は、再びペイン監督とタッグを組んだ本作で念願のアカデミー賞主演男優賞ノミネートを果たした。 物語の舞台は1970年、ボストン近郊にある全寮制の名門バートン校。生徒や教師たちがクリスマス休暇で家族が待つ家に帰るなか、嫌われ者教師のハナム(ジアマッティ)と家庭に難ありの反抗的な生徒アンガス(ドミニク・セッサ)、そしてベトナム戦争で息子を失った料理長のメアリー(ダヴァイン・ジョイ・ランドルフ)は、雪に閉ざされた学校に留まることを余儀なくされる。時に反発し合いながら過ごすうち、互いに孤独を抱えた彼らの関係は少しずつ変化していくことに。 ジアマッティが演じた古代史の教師ハナムは、生真面目で融通が利かず、同僚の教師や生徒たちからも嫌われている男。しかし誰にも言えない過去を抱える複雑さも携えており、元々ジアマッティを念頭に置いて作られたキャラクターだったようだ。「アレクサンダーが私を選んだ理由の一つは、役との間に共通点がたくさんあったからだろう」と、ジアマッティ自身もハナムと通じる部分が多数あったと認めている。 父親がイェール大学で学長を務め、母親も祖父母も教師という環境で生まれ育ったジアマッティ。学校というなじみ深い空間が舞台ということもあり「はじめから世界観を理解することができた」と明かす彼は、自らペイン監督に「私にはこの人物のことがよくわかる。だから任せてほしい」と告げたのだとか。「それに、知っていてのことかはわからないが、古代史にも興味があるんです。監督の計らいがあったのかな」とジアマッティは謙遜混じりの笑みを浮かべた。 そんなジアマッティにはもう一つうれしかったことがあるという。それはアンガスを演じたセッサとの共演だ。物語の中心を担う重要なキャラクターということもあり、そのキャスティングは難航。これまで映画出演経験が一切なかったセッサにペイン監督は難色を示していたが、ジアマッティのあと押しで彼はオーディションへの参加を叶えた。さらにジアマッティはその選考過程にも立ち会い、セリフの読み合わせなどサポートをしたのだとか。 「ドミニクは舞台経験が少しある程度だったが、その時点でも十分な素質を持っていました」と振り返るジアマッティ。撮影現場でも彼は“教師”のように“生徒”であるセッサに自分の実体験を共有し、俳優としての意識の持ちようなどを教えたという。「もちろん最初のほうは少し手助けをする場面もありました。でも私の助けなんてすぐ必要なくなりました」と、約800人の応募者のなかから選ばれた2002年生まれの新星の才能に絶大な信頼を置きながら、自身も役に臨んでいたことを明かす。 また、メアリーを演じアカデミー賞助演女優賞に輝いたランドルフについても「すべてが期待以上だったし、発想が豊かで本当におもしろい。ただおもしろいだけでなく、役の捉え方がすばらしく、メアリーに深みが出ました。エネルギーにあふれ、色鮮やかな才能を持つ、本当にすばらしい人です」と手放しで大絶賛。そして、“置いてけぼり”になった3人が織り成す物語について「監督がこれまで手掛けてきた作品と同様、リアルな人間模様に安らぎを感じてほしいです」と強い自信をのぞかせていた。 文/久保田 和馬