米軍攻撃免れたシリア、今どうなってるの?
10月31日、化学兵器禁止機関(OPCW)が、シリアにある化学兵器の関連施設が全て廃棄されたことを確認したと発表しました。2年以上にわたって内戦が続くシリアでは、8月21日に化学兵器が使用されたと報じられ、これをきっかけに欧米諸国は軍事介入を主張しました。しかし、最終的にシリアが化学兵器を廃棄することを条件に、軍事介入は回避されたのです。とはいえ、化学兵器が廃棄されたとしても、シリア情勢は依然として不安定で、楽観できない状態が続いています。【国際政治学者・六辻彰二】 【写真・動画】シリアに溢れる破壊と殺戮
ロシアの働きかけで軍事介入を回避
化学兵器の使用をうけて、もともとシリアと対立する欧米諸国は、「化学兵器がアサド政権によって使用された証拠がある」として、人道的な観点から軍事介入を主張。これに対して、シリア政府と近く、「政権側が化学兵器を使用したという根拠がない」と強調する中ロは、国連安全保障理事会の決議で拒否権の発動も辞さない構えをみせました。 「軍事介入」案が行き詰るなか、ロシア政府の働きかけで、シリア政府は化学兵器の廃棄に合意。これを踏まえて米ロは、来年半ばまでに、シリアの申告に基づき、国連とOPCWがその化学兵器を廃棄することで合意しました。この枠組みを各国が受け入れることで、軍事介入は回避されたのです。 シリア政府の申告によると、化学兵器関連施設は23カ所。10月6日、国連とOPCWの合同チームが査察と廃棄を始めましたが、内戦が続くなか、約1000トンに及ぶサリンやマスタードガスを廃棄する作業は「前例のない危険任務」(潘基文・国連事務総長)。その活動が評価され、OPCWは今年ノーベル平和賞を受賞しました。 ただし、今回OPCWが確認した関連施設の数やその廃棄は、シリア政府の申告に基づくため、実態に不明確な部分があることも確かです。
反体制派は内部分裂
一方、化学兵器の廃棄作業と並行して、内戦終結に向けた米ロの仲介も本格化。10月7日の米ロ外相会談では、アサド政権と反体制派の双方が参加する和平協議「ジュネーブ2」を、11月半ばに行うことが合意されました。国連とアラブ連合の合同シリア特別代表を務めるブラヒミ氏の働きかけで、シリア政府と同盟関係にあり、アサド政権に影響力をもつイランの出席も調整中です。 ところが、欧米が支援する反体制派の連合体「シリア国民連合」は、アサド政権の退陣を前提条件としているため、その確約がない和平協議への出席をめぐって内部分裂が深刻化。さらに10月27日、「国民連合」に加わっていない反政府イスラーム系19団体は、ジュネーブ2への参加拒否を表明。アサド政権の退陣が確実でないことや、イランが出席する可能性が、主な理由でした。