在日中国人の教育熱に「温度差」が出てきたワケ 子の出生時から計画立てる人、「普通でいい」人
近年来日した富裕層は「日本の有名校」にこだわらない
昨今、ニュースなどでも話題になっているのが富裕層の日本移住だ。2020年から流行した新型コロナウイルスに対して、中国政府はゼロコロナ政策を実施。ロックダウンなどの厳しい措置や政治リスクを憂慮した富裕層が22年の後半ごろから急速に海外に「潤」(ルン=海外移住、海外逃亡などの意味)し始め、その一部が日本にもやってきているのだ。 彼らは経営管理ビザなどを取得して日本に居を構えており、年齢は30~50代が多い。彼らが従来の在日中国人と大きく異なるのは、日本語が不自由という点だ。2000年代に留学や就職を目的として来日した前述の在日中国人とは異なり、「中国から逃げる」ことが目的のため、もともと日本にはあまり関心がなかったからだ。 こうした富裕層たちは、必ずしも子どもを日本の有名校に進学させたいと考えてはいない。 その理由は、彼ら自身、日本語がほとんどできず、日本事情に疎いということもあるが、それだけではない。22年に来日して1年半になる男性は、2人の子どもを都内のある区立小学校に入学させた。有名校ではなく、自宅の近所にある、ごく普通の学校だ。 一緒に来日した子どもたちも日本語はほとんどできなかったが、小学校が無料で行う日本語の補習授業などを受け、最近ではメキメキと上達し、「飲食店に行くと、子どもが流暢な日本語で料理を注文してくれるので、ホッとしているんです」とうれしそうに話していた。 この男性曰く、「日本移住を決めた理由は中国の政治リスクや財産管理の問題だけでなく、中国の習近平思想や愛国教育を我が子に受けさせたくなかったからです。それに近年は国民の国防意識を高めるためといって、小学校の授業でも軍事訓練まで行われているところもあります。私は子どもには政治の影響を受けさせたくない。政治と関係なく、伸び伸びと育ってほしいと思っています。 勉強はもちろん大事ですが、まずは日本の生活に慣れて、日本語をしっかり勉強すること。その上で本人が中学受験したいと言うのであれば、すればいいと思っています。だから、普通の学校でいいと考えました」。 この男性のように語る富裕層は、筆者が知るかぎり、ほかにも何人もいる。中国では「高考」(ガオカオ)と呼ばれる大学統一入学試験が非常に有名だが、その受験のために中国の子どもは多大な犠牲を払って受験勉強を行う。「人生を懸けた一発勝負」ともいわれるが、そのために親も子も必死になることに嫌気が差して、子どもを高校から海外の学校に進学させる人も増えている。 そのため、日本移住した人の中には、この男性のように「普通の学校でいい」という人や、「中国にいるときにインターナショナルスクールに通わせていたので、その延長で、日本でもインターナショナルスクールに通わせ、大学は欧米へ行かせたい」という考え方の人が増えている。経済的に豊かになり、無理やり勉強させなくても、人生にはさまざまな選択肢があると考えているのだ。 このように、同じ「在日中国人」といっても、さまざまだ。日本では来日時期や学歴などに関係なく、彼らを1つの塊として十把一絡げに見てしまいがちだが、実際は異なる。近年来日した人などを含めて在日中国人社会では多様化が進んでおり、教育熱1つとっても温度差がかなり出てきているのだ。 (注記のない写真:imtmphoto/Getty Images)
執筆:ジャーナリスト 中島 恵・東洋経済education × ICT編集部