中国念頭に経済安保の体制強化 政府、情報収集や分析の専門人材育成開始し企業支援促進
政府が、経済安全保障政策を推進するための体制を強化している。情報収集や分析の能力の向上に向け、来年度にも産業界やシンクタンクと協力して専門人材の育成を開始。機密情報へのアクセスを官民の有資格者に限る「セキュリティー・クリアランス（適格性評価）」制度の普及を目的に、国内企業の態勢整備も支援する。鉱物資源の国家管理を強める中国などを念頭に、官民の連携を進め、実効的な経済安保政策につなげたい考えだ。 ■国全体でインテリジェンス強化 経済安保に関する情報収集・分析能力は「経済インテリジェンス」と呼ばれる。政府は経済産業省を中心に、企業やシンクタンクから専門人材を受け入れ、地政学上のリスクやサプライチェーン（供給網）に関する分析・政策立案などにあたらせ、育成を図る方針。同時に、政府が持つ情報を産業界などにも提供し、国全体で経済インテリジェンスの強化を目指す。 また、経済安保に関する情報を官民で取り扱うには、適格性評価制度が欠かせない。この制度では、半導体などの重要物資の供給網や重要インフラなどの情報を「重要経済安保情報」として指定し、アクセスを有資格者に限定する。情報を漏洩すれば厳罰が科される。 ■背景に国際秩序の変化 政府はこの制度を普及させるため、企業向けの研修や個別相談を実施するとともに、資格の取得に向けた社内体制の整備に関する助言や支援の仕組みも整える考えだ。 政府が経済安保政策の強化を急ぐ背景には、中国が覇権主義的な動きを強めていることやロシアによるウクライナ侵略など国際秩序の変化がある。政府関係者は「世界は大国間の競争に回帰し、地政学的な対立に（重要物資の輸出制限などの）非軍事的な手段を持ち込む動きが拡大した」と指摘する。 半導体や量子、人工知能（AI）などは民生の最先端技術だが軍事転用も可能で、世界的に技術競争が過熱している。中でも中国は、半導体材料であるガリウムの輸出を規制するなどの経済的威圧を繰り返している。 経産省幹部は「民間の産業・技術基盤を強化すること自体が安保に直結する」として、官民を挙げた取り組みの必要性を訴える。（中村智隆）
