<わたしたちと音楽 Vol.40>ゆりやんレトリィバァ 自分が面白いと思うことを信じて、世界へ羽ばたく
アンチコメントをネタに、賞レースで優勝
――良いライフハックを、ありがとうございます(笑)。お笑いの価値観も、ここ10年くらいで変わりましたよね。昔は“容姿いじり”が当たり前のような時代もあったけれど、最近は少なくなったように感じます。 ゆりやんレトリィバァ:私がお笑い芸人になったばかりの頃は、まだ容姿いじりが普通にありましたね。私、2019年に体重が110kgあったんですよ。面白さのために意識してそうしたわけではなく、めちゃくちゃな生活をしていたことによる怠慢で、いつの間にか……でもあるとき、せっかく健康な体に産んでもらったのに、「この状態は良くないな」と思って、トレーナーに「私、変わりたいです」と言ったんです。そうしたら「アメリカで水着姿も披露したし、今の体型でやれることは全部やってるはずだから、新しいゆりやんになって頑張ろう」と言ってくれたんです。そうしてトレーニングや食事制限を始めて、2021年に40kgの減量に成功。体も軽く健康で、メンタルもポジティブになって、それまでだったらあり得なかったスポーツ関連の新しい仕事ももらえるようになったんです。以前はボディポジティブというか、「太っててもええやん」って感覚だったけれど、振り返ってみると自分にとってはベストな状態ではなかった。心から「自分はこれがいい」って思える、自分にとって最高の状態を努力して得られたって思えたんですね。 ――ご自身で納得できたことで、周囲の声もノイズにならなかったのでしょうか。 ゆりやんレトリィバァ:芸人仲間は「健康的でいいじゃん」って言ってくれたのですが、インターネットでは「芸人捨てたんか」とか「痩せてもブスだ」とか言ってくる人もいましたよ。腹が立ったから、その人たちに復讐するつもりでネタを作って、その年に出場したR-1で優勝しました。 ――アンチへの対抗心をモチベーションに、『R-1グランプリ』で優勝したのはカッコいいですね。 ゆりやんレトリィバァ:インターネットではまだそうやって容姿いじりをしている人たちの声が大きく感じますが、劇場に来てくれるお客さんの反応は全然違うんですよ。10年前は「私ブスなんです」ってコメントがウケていたけど、今は自虐的なコメントをすると、お客さんが「ここは笑ったらあかん」というムードになっているのがわかります。私も「ウケないからやめよう」というだけじゃなくて、自分や他人の容姿に対してネガティブなコメントをするのは「人として、ひどいからやめよう」と思うようになっているんですよね。自分の気持ちも変化しています。そうやってアンチコメントをネタにしていくうちに、「ゆりやんにアンチコメントしても、それをネタに賞レースで賞金稼がれるだけだ」と言われるようになりました(笑)。