「中国はただ与えない…中国の銀行から14億ドル借りたマスク氏、米国の安全保障に脅威」
「米国の国家安全保障に危険な人物」。 テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)をめぐりこのように主張する米予備役将軍の寄稿が先月31日のニューヨーク・タイムズに掲載された。マスク氏は自身の事業で絡む中国と身近に接しているが、彼がトランプ次期米大統領の最側近として次期政権の政策に深く関与するとみられ、米国の安全保障に脅威になりかねないということだ。 ジョージ・W・ブッシュ政権時代に米陸軍中将を務めたラッセル・オノレ氏は同紙への寄稿で、「マスク氏は中国・上海ギガファクトリー建設に向け中国政府が統制する銀行から最小14億ドル(約2200億円)以上の貸付を受けた」と指摘した。上海ギガファクトリーはテスラの電気自動車組み立て工場で、テスラの世界生産量の半分を受け持っている。 オノレ氏は「中国は何かをただ与えたりしない。中国の現行法に基づき共産党は自国で事業をする企業にこの見返りとして情報を要求できる」と付け加えた。そのため共産党がマスク氏に次期政権の実力者として得ることになった敏感な機密情報を要求する可能性もあるというのが彼の主張だ。 マスク氏は次期トランプ政権で連邦政府の予算削減と規制撤廃などを担当する政府効率化省のトップに任命された。しかし彼の影響力はすでに外交や国防など全方位へ拡大していると分析される。マスク氏はトランプ氏の大統領選挙勝利後にウクライナのゼレンスキー大統領と通話する席にも同席し、イラン要人と会って両国の緊張緩和案を協議した。また、彼は自身が所有する宇宙企業スペースXが米航空宇宙局(NASA)や国防総省と契約して米政府の機密事項にアクセスする権限もある。 オノレ氏はこうしたマスク氏が中国共産党に友好的な「親中派」という点を懸念する。マスク氏は2021年に共産党旗揚げ100周年を記念して中国の習近平国家主席に賛辞を送った。翌年には「台湾を中国の特別行政区にしなければならない」と発言した。また、2023年に当時の秦剛中国外相との会談では「米国と中国のデカップリングに反対する」と話した。 オノレ氏は「調査を通じてマスク氏が中国と深い関わっているという事実が立証されれば、連邦政府はマスク氏の機密アクセス権を剥奪する案を含め対策を用意しなければならない」と促した。彼は「マスク氏がトランプ氏の当選に向け巨額を寄付したからとホワイトハウスが国家安全保障リスクを無視してはいけない」と指摘した。マスク氏はトランプ氏の大統領選挙勝利に向け最小2億6000万ドルを使った。 一部ではトランプ氏の最側近のうち唯一の親中派であるマスク氏がトランプ氏の対中政策に影響を及ぼす恐れがあるという見方も出ている。トランプ氏は中国からのすべての輸入品に「関税爆弾」を予告したが、マスク氏がこれを実行する水準を下げることもできるということだ。 国際人権団体フリーダムハウスの中国研究責任者、王亜秋氏は最近フィナンシャル・タイムズに「マスク氏は事業的利害関係のため中国の圧力に弱い。こうした力学関係は共産党がトランプ政権の対中政策に影響を及ぼしかねない十分な機会を作る」と話した。