小4から100回以上自殺未遂を繰り返したワケ…「刺し違えるつもりで包丁を隠し持っていた」親から見放された20年間ひきこもりの33歳男性
「他のひきこもりに会ってみたい」
その後、母親が不登校を専門にしている地元のクリニックを探して受診。親子でカウンセリングを受けるようになり、小川さんは少しずつ落ち着きを取り戻していった。 通信制高校に進んだが、時間はたっぷりある。家にひきこもった後は、ほぼ一日中、ゲームをやっている人も多いが、小川さんは逆に、ひきこもってからゲームができなくなったという。 「僕みたいにコミュニケーションが苦手な子は、流行りのゲームを一緒にすることによって友だちと共通の会話ができていたんです。だから、ひきこもって、共有する相手が周りにいなくなったら、ゲームが楽しくなくなったんですね。ひきこもりの中には、リアルでは会えなくてもオンラインゲームなら大丈夫みたいな人も結構いますけど、僕は、オンラインはダメですね」 その代わり、ほとんどの時間を読書に充てた。特に哲学書や思想系の古典が好きだと言い、『ヨブ記』、『神曲』、カント、ランシエール、マルクス、トーマス・マン、ジョイス、トルストイ、柳宗悦、鷲田清一など、古今東西の作家や哲学者、書物の名前が次々と出てきて驚いた。 通信制高校を卒業後、20歳のころから地元のひきこもり当事者会に参加するようになった。しかも、自分で保健所に電話をして近くでやっている当事者会を探したのだという。 ひきこもりの人は自分から動くことが苦手なイメージがある。どうして参加しようと思ったのかと聞くと、意外な返事が返ってきた。 「自分以外のひきこもりに会ってみたかったんです。行ってみたら、僕と同じような動けなさを抱えた人たちが来ていたので、なんか、安心できましたね」 あるとき、ひきこもり当事者が自分たちの声を発信するため『ひきこもり新聞』という媒体を作るので、「原稿を書いてみないか」と誘われた。小川さんが書いた原稿が2016年11月に発刊された創刊号に掲載されると、他の当事者団体でも話題になった。 だが、こうして動き始めたことで、新たな悩みも生じる。それが、後に再び「死にたい」衝動につながるとは、小川さん自身、予想もしていなかった――。 取材・文/萩原絹代