発達障害だった長男を悲観して「この子の人生を終わらせよう」と浴槽に沈めた母 精神疾患を抱え、幼児3人を〝ワンオペ育児〟
救急車のサイレンが近づいてくると、われに返った。「これからどうなるのだろう」。現実感がぶわーっと押し寄せてきた。駆けつけた救急隊員に事件だと打ち明ける勇気は出なかった。 翌日、夫に長男を殺したことを告白した。夫は動揺していた。残された娘たちのため、自首しないと決めた。京都府警の捜査員も事件だと気付かなかった。 その後、夫とは離婚。親族と娘2人を育てながら過ごした。ただ、わが子を手にかけた後悔が消えることはなかった。「苦しくて、一人では抱えきれない」。事件から3年半が経過するまでには、妹や知人など数人に犯行を打ち明けた。「聞かなかったことにする」「残された子どもたちを守れ」と口々に言われた。 事件から約4年後の2021年11月22日。知人の通報がきっかけとなって、女性は殺人容疑で逮捕された。最初は知人を恨んだ。でも、正直ほっとした。自責の念に駆られながら過ごした4年間は、まさに生き地獄だった。
公判では量刑が争点となった。検察側は論告で「長男に身勝手にも『かわいそう』とレッテルを貼った。育児や悩みから解放されるために命を奪った」と非難した。求刑は懲役8年だった。 弁護側は「さまざまな工夫をしたが、不安や焦りを募らせてしまった。障害のある人が生きづらい社会の中で、『身勝手』というのは、事件の一面しか見ていない」と反論。執行猶予が相当だと主張した。 判決は懲役4年6カ月の実刑だった。殺人罪の法定刑の下限(5年)を下回る異例の量刑だ。それは、裁判長が「自身の障害に対する家族の十分な理解や支援がなく孤立感を深め、追い詰められた」と情状酌量したためだ。 ただ裁判長は「長男の養育に疲弊し、将来を悲観した。犯行動機に酌むべき点はない」とも指摘した。判決の言い渡しを終えると、女性に語りかけた。「服役中、長男がどんな気持ちだったのか客観的に考えて想像してほしい。内省を深めてください」。女性は涙をぬぐいながら、しっかりとうなずいた。