年の差を超えた友情を描いた邦画の傑作は? 珠玉の名品(2)ラストに感動…天才監督による唯一の心温まる逸品
人が心を通わせ合うとき、歳の差は問題ではない。しかし、何かと数字にとらわれてしまうのが人間だ。だからこそ、常識を超えた瞬間に心がときめく。今回は、歳の差のある友人関係を描いた日本映画を5本セレクト。一般的なバディものと一味違った、年の離れた人間同士の交流が育む温かな物語をご紹介する。第2回。(文・シモ)
『菊次郎の夏』(1999)
監督:北野武 脚本:北野武 出演:ビートたけし、関口雄介、岸本加世子 【作品内容】 幼くして父親を亡くし、祖母と二人暮らしの小学3年生の正男(関口雄介)。夏休みを迎えるが、祖母は仕事のため日中は不在、自分の通うサッカークラブもお休みで、誰も遊ぶ人がいない。 正男は、遠くの町で暮らす実の母に会いに行く決心をする。彼の気持ちを察した近所のおばさん(岸本加世子)は、遊び人の夫・菊次郎(北野武)を同行させることにして...。 【注目ポイント】 本作は少年・正男と近所のおじさん・菊次郎との、一夏の交流を描いたロードムービーだ。 口が悪くて無茶苦茶なところはあるが、実は優しいヤクザな男・菊次郎。たまたま出会った地元の中年たちを巻き込んで正男とスイカ割りをしたり、「だるまさんが転んだ」をするなど、当の菊次郎自身も大人であることを忘れ、無邪気に楽しんでいる姿が何とも微笑ましい。 とはいえ、締めるところはしっかりと締める。正男が地元の怪しい老人に連れていかれた時には、必死に探し出して危ないところを救ってあげるような一面も持ち合わせている。正男の父親のような役割も担っているのだ。 物語のラスト、夏休みの少年と中年の「友情の旅」は、終わりを告げる。菊次郎は正男を優しく抱きしめた後、「早く帰れよ!」とうながす。 寂しさをストレートに表現できない、彼ならではの不器用な別れ方なのだろう。そして家に帰る正男の後姿を、真剣なまなざしでいつまでも見つめる菊次郎。その表情は、観る者の記憶に永遠に刻まれている。 (文・シモ)
シモ