キャラメルボックスの名作『無伴奏ソナタ』のミュージカル版が開幕
成井豊が脚本・演出を手がけ、演劇集団キャラメルボックスの代表作のひとつとして人気を博してきた『無伴奏ソナタ』。この名作が『無伴奏ソナタ-The Musical-』として初のミュージカル化、7月26日、東京・サンシャイン劇場でその幕を開けた。そこで初日前日に行われた、公開ゲネプロ、およびキャスト取材会の模様をレポートする。 【全ての写真】『無伴奏ソナタ-The Musical-』公開ゲネプロより すべての人間の職業が、幼児期のテストによって決定される時代。音楽の神童だったクリスチャン・ハロルドセンには、「メイカー」という仕事が与えられる。それ以降、音楽を作ることだけが人生のすべてになったクリスチャン。既成の音楽を禁じられ、人里離れた森の中で静かに暮らしていたが、ある日、バッハの音楽を耳にしてしまい……。 キャラメルボックスの劇団員で、過去3度クリスチャンを演じてきた多田直人が「これまでの『無伴奏ソナタ』をご覧になっている方は、最初もしかしたら面食らっちゃうかもしれない」と語るほど、確かに作品から受ける印象は大きく変わった。これまでのストレートプレイ版では、メイカーを運命づけられたクリスチャンの悲哀、影の部分を色濃く感じたが、このミュージカル版ではそれでも音楽がなければ生きられない、クリスチャンの音楽に対するどうしようもないほどの愛と喜びがあふれている。 音楽の神童の半生を描いた本作。ミュージカルとの相性は悪いわけがない。劇中、主要な場面で何度もリフレインされるクリスチャンのナンバー。音楽を作ることへのクリスチャンの情熱がこのナンバーに集約されており、どんなに過酷な状況にある時も、常に彼の背中を押し続ける。演じるのは平間壮一。彼自身の持つ優しさやピュアさが、そのままクリスチャンを形作っているかのようでハマり役だ。平間はこう語る。「今まではこういうことを伝えたい、みたいなテーマを持って演じることが多かったですが、このクリスチャンに関しては、観た方にどんな想いが伝わるのか、自分でも想像出来なくて。つまり自分が出来るのは、クリスチャンの人生を一生懸命演じ切ること。それしかないのかなと思っています」。 このミュージカル化による変化は、クリスチャンにまつわる人々にも。クリスチャンのハウスキーパー・オリビア(霧矢大夢)に、彼が足繁く通うことになるバー&グリルの店主ジョー(藤岡正明)とウエイトレス・リンダ(熊谷彩春)。さらに彼に音楽の喜びを呼び戻すギレルモ(大東立樹)。多様なナンバーが個々の登場人物をより魅力的に輝かせると同時に、エンターテイメント作品らしい華やかさと彩りを与えている。中でも印象に残ったのは、得意な英語の楽曲を披露した熊谷の歌声と、半年の特訓の成果を見せつけた大東のギター演奏。特に大東に関しては、彼のギターの師匠と言う藤岡が、「これまで楽器の練習をする俳優はたくさん見てきましたが、お世辞でもなんでもなく一番うまいです」と太鼓判を押すほどだ。 クリスチャン役のバトンを平間に渡した多田は、今回ウォッチャー役として出演。一転してメイカーを監視する側の役を演じることになったが、クリスチャンをやってきた多田にしか出来ない、新たなウォッチャー像を生み出している。また多田のほかにも、劇団員から畑中智行、原田樹里が参加。ミュージカル界の実力派とキャラメルボックスとの共作について藤岡は、「日本を代表する劇団の名作を、こういったコラボでミュージカル化するというのは本当に大きな挑戦。だからこそ成功させたいと思います」と語り、さらに「僕は来年あたりキャラメルボックスに入ろうかと……(笑)」との驚きの告白も。これには多田も「こんな大型新人が入ったら困りますよ!」と笑いつつ、「この作品は、演出の成井豊を始め僕ら劇団員だけではどうしようもなく、いろいろな経験を積まれた方々が集まってくれたからこそ出来上がった舞台だと思います」と語り、その仕上がりに自信を見せた。 取材・文:野上瑠美子 <東京公演> 無伴奏ソナタ -The Musical- 公演期間:2024年7月26日(金)~8月4日(日) 会場:サンシャイン劇場