「履歴書書くのがつらい…」 「欠勤連絡したら怒られて…」 働きたくても働けない葛藤抱えた人がたくさんいるのに…精神科医が問う「会社の常識」
発達障害や精神疾患あっても働ける方法探る
発達障害や精神疾患を背景に、定時出勤や密なコミュニケーションなど「会社の常識」に合わせることが苦手な人でも働き続けられる仕組みをつくりたい―。長野県長野市の「川中島Fメンタルクリニック」院長の福家知則(ふけとものり)さん(51)は、そんな思いから当事者や家族との意見交換会や、新たな働き方を呼びかけるための企業訪問といった行動を重ねている。現行でも法定の障害者雇用率制度や福祉的就労などはあるが、「その枠に当てはまらない人がいる」として、異なるアプローチでの働き方の実現を目指している。 【写真】「会社の常識」を問う精神科医の福家さん
上司や同僚と話さなくていい、いつ出社してもいいー働き方
上司や同僚と話さなくていい。いつ出社してもいい。採用時に履歴書の“空白期間”は重視されない―。そんな一人一人の働きやすさや採用のされやすさに焦点を当てた構想を、福家さんは「ichi(イチ)」と名付け、提唱する。
働きづらさの理由は
精神科医の福家さんは、発達障害や精神疾患が原因で休職や退職する人を数多く診てきた。当事者の思いを知りたいと昨年4月以降、通院患者らとの意見交換会を計8回クリニックで開き、働きづらさの理由を聞くなどして働きやすい仕組み作りを考えた。 意見交換会では、抑うつ症状が朝に強く出るうつ病患者が、やむを得ず出勤直前に欠勤の連絡をしたら「信頼関係が崩れる」と怒られ退職につながった体験を話した。「履歴書を書くのがつらい」と訴えた人は、離職していた期間が採用の際に問題視されるとして、「言い訳を考えるところから始まる」と苦しさをにじませた。
職場の工夫次第で働ける人も
福家さんは「職場側が働き方の工夫を用意することで一歩踏み出せる人もいる」と訴える。例えば職場での会話が苦手な人は、あいさつや口頭での相談などがなければ十分働ける。では、話をしたい人は赤い札、したくない人は青い札を表示し、業務に必要な「ホウレンソウ(報告・連絡・相談)」は電子メールなどで済ます方法を取り入れたらどうか。「イチ」はそんな働き方を提案する。
復職支援を重視
福家さんは岡山県出身。精神科医を志したきっかけは、九州大経済学部卒業後に就職した福岡県内のテレビ局で、真面目な同僚がうつ病を患い休職したり退職したりする姿を目の当たりにしたことだった。3年余りで退社し宮崎大医学部に入学。妻が長野県出身という縁で信州に転居した。勤務先だった長野市の病院では2017年、退職や休職した患者の復職を支援する「リワークプログラム」の導入を主導。19年の開院後もこうした復職支援を重視する。