福島県勢初の高校サッカー決勝進出を狙う尚志は、なぜ旋風を巻き起こしているのか?
前橋育英戦、そして帝京長岡(新潟)との準々決勝でともに決勝ゴールを決めた2年生エース、FW染野唯月(いつき)が「ボランチをやりたい」と書き込んだことがあった。染野自身も「気持ちがちょっと……」と苦笑いしながら振り返るように、自信が揺らいでいる時期でもあった。 「お前は自分のよさがわかっていない」 こんな言葉を綴った仲村監督は、U-17日本代表にも選出された染野がただ一人の2年生レギュラーとして、初めてプレーする全国選手権の舞台で成長を遂げている姿に目を細める。 「前線で体を張ってくれるところを含めて、チームのために自分を犠牲にするプレーもよくできている。代表に選ばれてからは、ディフェンスもしなければいけない、という意識もすごく強まりました」 褒めて伸ばすという指導方針は、今大会を最後に勇退した四日市中央工業(三重)の樋口士郎監督(59)から学んだ。本田監督から「樋口さんは絶対に怒らない」と聞かされた指揮官は、半信半疑の心境で四日市中央工業へ連絡を入れてベンチワークを見学させてもらった。 「怒らない監督なんていない、絶対にイライラすると思っていたら、樋口さんは試合中に『ええやん、ええやん』しか言わないんですよ。それから僕も考え方を変えました」 大先輩たちの背中に学ぶだけでなく、同世代の指導者との絆もフル活用している。たとえば左サイドバックの沼田皇海(すかい=3年)は同じ左利きで、直接フリーキックを十八番としてきた元日本代表MFの中村俊輔(ジュビロ磐田)を間近で見てみたいと望んできた。 教え子の思いを知るや、大学の同期でもあるジュビロの名波浩監督(46)に電話を入れて、昨年9月に沼田の練習参加を実現させている。果たして、前橋育英戦の後半9分に決まった先制ゴールは、約20mの距離から5枚のカベを超えてネットを揺らした、沼田の直接フリーキックから生まれた。 「名波に連絡したら、普通に『おう、いいよ』と言ってくれて。プロの厳しさなどを知ってジュビロから帰ってきましたし、練習も人一倍やっていますからね」